図16-Aは、ハイイロチョッキリによって食害されたシラカシの幼果です。ハイイロチョッキリは、幼果に長い口吻を突き刺して樹液を吸いますが、ハイイロチョッキリのように長い口吻を持たない昆虫でも、ハナムグリのように直接幼果に齧りついて樹液を吸うものもいます(図16-B参照)。
いずれにせよ昆虫達は幼果そのものを食すわけではなく、樹から樹液を吸うための吸水口として、柔軟な組織をもつ幼果を利用しているだけですが、こうして損傷を受けた幼果は数日と経たないうちに枯死してしまいます。
生まれて間もない幼果は、抵抗する術も無く昆虫達の餌食になってしまうのですが、この時期を無事に乗り切ってもまだまだ安心は出来ません。成熟間近になると、今度は全く別の目的をもつ昆虫達によって、あたらな攻撃を受けることになるのです。
図16-Cは、成熟するおよそ1ヶ月前に採集したコナラのドングリです。よく見ると、へそに近い果皮に針で突いたような小さな孔があります。これは、冒頭のハイイロチョッキリやシギゾウムシのような長い口吻をもった昆虫が、彼らの子育てに使う “ ゆりかご ” としてドングリを利用するために開けた産卵孔です。卵を産みつけられたドングリは、孵化した幼虫が種子を食糧にするため、それらの多くは発根することなく朽ち果ててしまいます(*)。
* 種子の内部にある幼根が無事であれば、発根は可能です。
このように、開花してから結実するまでの間、ドングリはひたすら虫食害という苦難を耐え忍ばなければならないのですが、彼らも決してこの状況を甘んじて受け入れているわけではありません。
成長するにつれて強固な鎧で身を固めるものや、昆虫達の産卵意欲を消失させる等、彼らなりに巧みな虫害対策を身につけることで昆虫達との静かなる戦いを繰り広げているのです。
このセクションでは、成熟間近のドングリがハイイロチョッキリやシギゾウムシのような昆虫に産卵されるのを防ぐ為に、独自に進化を遂げたと考えられる虫害対策について紹介します。
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