16-3. 果皮の厚膜化

 セクション16-1とセクション16-2では、ハイイロチョッキリやシギゾウムシによって堅果に産卵されるのを防ぐ為に、殻斗の形態そのものを特殊化する武装強化方法について紹介しました。それに対して、ここでは産卵対象となる堅果そのものを武装するのに、種子を包む果皮を厚膜化する方法について紹介します。

 殻斗の形態を特殊化することが出来るのが、クヌギやアベマキのような種類に限定されるのと同様に、果皮を厚くすることが出来るのは、マテバシイやシリブカガシの様なマテバシイ属のドングリに限定されます(表16-3-1参照)。

 図16-3-1は、マテバシイ堅果の断面構造です(図16-3-1参照)。図中の赤丸で囲んだところは、昆虫が一般的にドングリに産卵孔を穿つ部位に該当します。マテバシイでは、この部分の果皮が特に厚く(果皮厚:2〜3mm程度)、しかも他の種類のドングリに比べて組織が緻密で非常に硬いので、容易に穿孔することは出来ません。昆虫達もこの事を熟知しているようで、マテバシイのドングリに産卵しようとするものはほとんどいません。

 ところが、昆虫の中にも変わり者がいるようで、稀に産卵孔のあるマテバシイの堅果を目にすることがあります。図16-3-2はその例ですが、残念ながら孔は果皮の途中までで、種子には達していませんでした。

 一方、どうにか種子に産卵出来ても、今度は成長した幼虫が中から出てこれなくなることもあります。図16-3-3はシリブカガシの堅果に産卵した例です。脱出を試みる幼虫が、苦労して開けた小さな孔の内部で蠢く姿が見え隠れするものの、一向に出てくる気配がありませんでした。それから、数ヶ月経ってこのドングリを解体してみると、中から干からびた幼虫が出てきました。“ 行きは良い良い、帰りは怖い... ” というのは正にこの事ですね♪