16-2. 殻斗の内側への鱗片の回り込み

 ドングリの種類ごとに、殻斗を覆う鱗片の形態は様々です。通常、鱗片は殻斗の外側だけを覆っていますが、コナラ属のドングリの中には、稀に殻斗の裾の辺りから鱗片が内側に回り込むものが存在します。
 鱗片が殻斗の内側に回り込む原因について調査した結果、ドングリが成長する過程で堅果と殻斗の成長速度のバランスが崩れ、殻斗の成長速度が先行したことで生じた余剰の殻斗が殻斗と堅果の間にできた隙間に巻き込まれたことによるものと判明しました。

 ところが、ドングリの虫害対策という観点からあらためてこの殻斗を見ると、鱗片が殻斗の内側に回り込むことで、へその周りの柔らかい果皮を包む殻斗が実効的に厚くなっていることから、妨害効果が期待できることが判りました。殻斗の内側に鱗片が侵入することによって、堅果が歪に変形するというデメリットもありますが、虫害対策としてはこれは非常に優れた構造であると考えられます。

 但し、鱗片が殻斗の内側に回り込むことによって、明らかに殻斗が肉厚になっているのは、アベマキやクヌギのような種類(図16-2-1参照)に限定されており、その他の種類(図16-2-2参照)については、裾から僅か数mm程度しか鱗片が回り込まないので、妨害効果が期待できるかどうか定かではありません。昆虫が堅果に産卵する場所として最も多いのが、殻斗の裾から堅果が露出する辺り(図16-2-2:赤丸で囲んだ部分)なので、この部分を補強するだけでも多少は妨害効果があるのかもしれませんが...。