16-4. 果実の矮小化

 形態を特殊化して武装する以外にも、昆虫達の産卵意欲そのものを減退させると言った妨害対策もあります。それは、産卵対象としてふさわしくないぐらいに、ドングリのサイズを小さくしてしまうことです。

 図16-4-1は、服部緑地公園(所在地:大阪府豊中市)に多数植栽されているアラカシの中で、半径15m以内に立地する4つの個体から採集したドングリです。樹木の生育状況(樹高や幹回りの太さ)や立地条件がほぼ等しいにも関わらず、これらの個体から落下したドングリの中で、昆虫による産卵孔のあるものの数を比較すると、明確な違いが見られました。

 どのアラカシも、最低500個以上のドングリを落としていましたが、(a)については、産卵孔のあるものは僅かに2個でした。ところが、それ以外のものについては、(b). 32個、(c). 24個、(d). 44個もありました。(a)の堅果のサイズは、幅 [ =堅果の胴回りの直径 ] 、高さ [ =へそから花柱の先端までの長さ ] 共に10mm前後であり、(b)〜(d)のものに比べるとかなり小さいことが判ります。恐らく、昆虫は図16-4-1にある(a)のドングリを、 “ ゆりかご ” としてふさわしくないサイズだと判断したのでしょう。このように、堅果のサイズを極力小さくするのも、昆虫の産卵を回避する一つの有効な手段であると私は考えます。

 但し、上記の結果は、ドングリのサイズを(a)のサイズまで小さくしてやれば、どんな環境下でも昆虫の産卵を回避できることを意味しているのではありません。以下にその理由を説明します。

 図16-4-2は、すずかけ台公園 [ 所在地:兵庫県三田市 ] に植栽されているアラカシの樹下に多数散乱していたものの一つです。これは、ハイイロチョッキリが堅果に産卵した後に、他の昆虫によって同じドングリに産卵されるのを防ぐ為に、枝ごと切り落としたものです。このドングリのサイズを見ると、図16-4-1の(a)のものとほぼ同じであることが判ります。このアラカシの周辺には、このドングリと類似したサイズのものを結実する個体がたくさんありました。

 恐らく、昆虫は自分達のテリトリーの中にある樹木のドングリのサイズを比較検分した上で、出来るだけ大きなサイズのものを選んで産卵しているのだと思います。要するに、周囲のドングリのサイズと相対的に違いが無ければ、どんなにサイズを小さくしても、妨害効果はほとんど期待出来ないということです。

 形態を特殊化することが出来ないアラカシの様なドングリは、サイズを矮小化することによって、他の個体に結実したより大きなドングリに、昆虫達の産卵意欲を向けさせることに成功しました。ですが、小さくなり過ぎたことで、堅果の容積に対する表面積の割合が極端に大きくなり、乾燥に対して脆弱な構造になってしまったことは否めません。

 昆虫による産卵を回避出来た代償として、発根しにくくなってしまったのでは、ドングリとしても痛し痒しってところでしょう。