25. ドングリからみたブナ科の系統

 ブナ科の植物の最大の特徴は、果実(ドングリ)が殻斗によって包含されていることです。殻斗の形態はブナ科を構成する種属によって様々ですが、基本的に同じ構造や機能を有する器官であることは間違いありません。

 著名な植物学者であるFormanは、半世紀ほど前に、殻斗が葉や茎などの複数の器官から構成されているという考えを元にしてブナ科の系統図(図25-A参照)を提案しました。以来、近年のDNA解析の結果から、ナンキョクブナ属がブナ科には属さないことが指摘されていることを除くと、この系統図は概ね支持されているようです。

 私もドングリに興味をもち始めた頃は、この系統図のすばらしさに感服しました。しかしながら、現存するマテバシイ属のドングリやコナラ属の多果ドングリの形態を詳しく調査していくうちに、この系統図にあるマテバシイ属やトゲガシ属、そして仮定的な祖型の取扱いについて疑問を抱くようになりました。

 図25-Bは、これまでの調査結果を元に私が描いたブナ科の系統図です。Formanのもの(図25-A)と比べると、マテバシイ属の殻斗が複数の雌花の基部に存在する複数の殻斗の元になる器官が変化したものではなく、1つの殻斗の元になる器官が変化したもの
(*)としている点、トゲガシ属がカクミガシ属の上流に位置しない点、そしてブナ科の祖型については基本構造がカクミガシ属に近い形態のもの(殻斗が包含する堅果数が多いかもしれません)としている点が大きく異なります。あと、ブナ属はカクミガシ属とドングリの形態がよく似ていますが、花軸の形態が大きく異なることから、マテバシイ属やトゲガシ属と同様に祖型から分岐したものとしています(**)
* 雌花の基部には殻斗の元になる器官(旧来の名称で総苞に相当する部分)があると考えられています。Formanの系統図を見ると、この器官は各々の雌花に付随しており、雌花の数だけ複数の器官が存在すると仮定しているようですが、私はこの器官が雌花から独立しており、複数の雌花が集結してもそれらの基部には1つの器官しか存在しないと考えています。
** これについては私の勝手な思い込みなので、今後DNA解析によって種属間の関係が明らかにされることを期待してます。

 さらに、現存するドングリの殻斗が包含する最大の堅果数を元にして、図25-Bの祖型や分化初期のドングリの形態を推定したものが図25-Cです(**)
** トゲガシ属のドングリについては、現存するものの最大果数は確認できておりません。

 これらの系統図は、このHPを開設してから掲載してきた記事を再考し、あらたなデータを付加して構成したものです。図25-Aと同様に、ドングリの形態から考案した一つの仮説に過ぎませんが、半世紀前にFormanが私の観察データをご覧になっていれば、おそらく図25-Aとは異なる系統図を描かれたのではないかと僭越ながら考えております。
 以下に、図25-B、図25-Cの系統図を描く元になったデータを紹介します。Formanの系統図(図25-A)と大きく見解が異なる@〜Bの項目別にまとめてありますので、各々の項目をクリックして内容をご覧下さい。
@. マテバシイ属の取扱いについて
A. トゲガシ属の取扱いについて
B. ブナ科の仮定的な祖先型について

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