C. カクミガシ属(殻斗片)からコナラ属(殻斗)へ
 カクミガシ属のような殻斗片で構成された殻斗から、コナラ属のような椀型の殻斗へ進化したという考え方は、あくまで推測であって確たる証拠はありませんが、私はこの考え方が確からしいことを示唆するデータを取得しました。
 コナラ属の殻斗の中には、種類を問わず稀に全体が波打つように歪んだり、部分的に大きな亀裂が入ったものが存在します(図25-4-1参照)。このように殻斗が変形する要因(*)は大きく分けて二つあります。一つは多果の発現によるもので、もう一つは殻斗の元になる器官の分裂によるものですが、これらの内の後者の要因について詳しく調査することで、殻斗片から一体物の殻斗へと進化したことを示す重要な証拠が見つかりました。
* 詳細は、セクション3-2-3-5を参照願います。

 殻斗の元になる器官は花軸上に独立して存在します。それらは種間や個体間で若干異なりますが、概ね小籠包か宝珠のような形をしています。そして、そこに開花すると先端の尖った口が開いて雌花が出現し、雌花の下にある少し丸みを帯びた台座のような形へと変化します(図25-4-2参照)。このように、殻斗の元になる器官は通常開花しても切れ目のない滑らかな構造物で、そこから雌花を包み込むように均等に殻斗が出現することで、きれいな椀型の殻斗を形成します。

 ところが、図25-4-1のような全体が波打つように歪んだり、部分的に大きな亀裂が入った殻斗を大量に発現する特殊なアラカシの個体について調査したところ、ほとんどの雌花序の殻斗の元になる器官が複数に分裂し、まるでお釈迦様が座る蓮の花のような形をしていました(図25-4-3参照)。分裂した殻斗の元になる器官は、各々の分裂片から殻斗が出現します。ですから、これらの断片的な殻斗を殻斗片に見立てることで、それらがどのように殻斗を形成していくかトレースしてみました(図25-4-4参照)。

 すると、分裂した殻斗の元になる器官から出現した殻斗の断片同士が近接したものについては、成長するにつれて合着することが判りました。一方、隣接していても少し間隔がある殻斗の断片同士は、成長してもそれぞれが独立したままで、最終的にその部分が殻斗の亀裂となって残ることが判りました。
 この結果は、1つの殻斗の元になる器官から出現した殻斗の断片(殻斗片)の中でも近接したもの同士は合着して一体化することを示しており、殻斗片から一体物の殻斗へと進化した可能性を示す重要な証拠になるのではないかと考えています。