3-1.  多果ドングリ  

 コナラ属は、殻斗の元になる器官に1つの雌花が咲いた雌花序が基本です。花被/花床で覆われた下位子房は、3つの子室によって構成されたものが一般的で、それぞれの子室に種子の元になる胚珠が2個包含されています(図3-A参照)(*)
 これらの胚珠が全て成長すると、1個の堅果の中にたくさんの種子が形成されることになりますが、普通はそれらの中の1個だけが成長して残りは退化消滅します。但し、稀に複数の胚珠が同時に成長して、1個の堅果の中に複数の種子が入ったドングリが誕生することもあります
(**)

 森林や公園などで我々が普段目にするコナラ属のドングリは、ほとんどが1つの殻斗に1個の堅果が入ったものです。ところが、稀に1つの殻斗に複数の堅果が入ったものを目にすることがあります。これらのドングリは、殻斗の元になる器官に複数の雌花が咲いて結実したものです(図3-B参照)。このHPでは、コナラ属で1つの殻斗に2個以上の堅果が入ったものを、便宜上 “ 多果ドングリ ”と命名します(***)。そして、殻斗の元になる器官に2つの雌花が咲いて、共に結実したものを2果、3つの雌花が咲いてそれら全てが結実したものを3果と表現します。
 因みに、コナラ属以外のドングリ、即ちクリ属、ブナ属、シイ属(****)、マテバシイ属
(*****)は1つの殻斗に1個乃至複数の堅果が入った多果が一般的です。
* 文献には、ブナ科の植物の雌蕊(クリ属は除く)は3枚の心皮から成ると記載されていますが、実際は少ないもので2枚(単一雌蕊は除く)、多いものは5枚(稀に5枚以上)の心皮で構成されています。ですから、雌花によって子室の数は2〜5個、胚珠の数は4〜10個程度のバラツキがあります。詳細は、セクション14を参照願います。
** セクション3-2-3-1を参照願います。
*** このHPでは、便宜上、殻斗の元になる器官に咲いた1つの雌花が結実したものを多果に対して単果と称します。
**** 国産のスダジイやツブラジイの典型的なドングリは、1つの殻斗に1個の堅果が入ったものですが、外国のシイ属のドングリは1〜3個の堅果が入ったものが一般的です。
***** マテバシイ属のドングリは、複数の殻斗が合着しているわけではないと私は考えています。詳細はセクション25を参照願います。

 このセクションでは、これまで私が調査してきた多果の形態や生態について紹介します。
3-1-1. 多果の形態の特徴
3-1-2. 多果ドングリの世界
3-1-3. 多果の形態のバリエーション
3-1-4. 多果の形態を決める要素
3-1-5. 多果の雌花と幼果