3-1-6. 多果ドングリの雌花と幼果

 このセクションでは、多果ドングリの原点とも言える多果の雌花序や幼果の形態についてご紹介します。開花後1ヶ月程度の小さくてかわいらしい赤ちゃんドングリでも、個体差が明確に現れています。

1. 多果の雌花序

 多果の雌花序は、殻斗の元になる器官に同じぐらいの大きさの複数の雌花が咲いた構造が一般的ですが、中には図3-1-6-1にある2果の雌花序の様に、2つの雌花の大きさが極端に異なる場合もあります。各々の雌花のサイズや雌花を構成する心皮の数、さらには雌花同士の間隔等が多果ドングリの形態を大きく左右します。

2. 多果の雌花序から幼果へ

 開花後約1ヶ月以上が経過すると、殻斗の元になる器官が徐々に殻斗らしい形へと変化していきます。

3. 多果ドングリの幼果の断面

 図3-1-6-3は、左側からそれぞれ単果、2果、3果の幼果を胴回りで切断した断面図です。多果を構成する雌花の間で子室や胚珠の数が異なるのは、各々の雌花(雌蕊)の心皮の数が異なるからです。

4. 様々な形態の多果の幼果

 開花後1ヶ月程度しか経っていない多果の幼果でも形態は様々です(図3-1-6-5参照)。


5. 開花から幼果期における多果の落果
  たくさんの多果が発現しても、ほとんどは幼果の段階で落果してしまいます。受精の恩恵に与れなかったものや栄養分散と言った内部的な要因で脱落を余儀無くされるケース以外に、外部的な要因で落果するケースも多々あります。

 図3-1-6-6は、シラカシの特定の花軸(果軸)を開花から7週間に亘って撮影し続けたものです。開花から2週間後までは、1つの果軸に単果と多果が合わせて15個あったのが、7週間後には半数以下の7個に減少していました。
 落果の1つの要因として、昆虫による食害が挙げられます。図3-1-6-7は、ハイイロチョッキリによって食害されたシラカシの幼果です。殻斗の側面には、シギゾウムシによって口吻を差し込まれた跡が見られます。

 落果の別の要因として、昆虫や鳥による物理的衝撃が挙げられます。樹の枝の間を飛び回る鳥や葉っぱを食する芋虫等が移動する際に、雌花序や幼果に接触して、その衝撃で落果するのです。とりわけ、カラスの様な大きな鳥が移動する場合は、新枝ごと折れてしまうこともあります。

 多果の幼果は、単果のものと比べて果軸との接合部分の面積が大きく、強固に密着しているイメージがありますが、実際に接合箇所の面積を調べてみると、単果と3果で大きな差が無いことが判ります(図3-1-6-8参照)。ですから、単果よりも重量や衝突断面積(鳥や虫に対するもの)が大きい多果の幼果は、その分だけ物理的な衝撃に対する耐性が低いと考えられます。