3-1-5-1. 多様な形態

1. 開花直後の雌花序
 多果の発現は、ブナ科の全ての樹種(*)において認められますが、ほとんどの樹種では極めて稀な存在です。但し、アカガシ亜属のシラカシについては、開花総数の数10%以上を多果が占める個体も珍しくありません。参考までに、多果を大量に発現した個体で撮影した花軸を図3-1-5-1-1に示します。
* シイ属、ブナ属、クリ属の樹木は、多果が基本です。マテバシイ属の果実についても単果の集合体ではなく、多果が基本であると私は考えています。

 
 通常我々が目にするのは、殻斗の元になる器官に2つの雌花が咲いた2果の雌花序か、あるいは3つの雌花が咲いた3果の雌花序のいずれかです(図3-1-5-1-2参照)。多果を構成する雌花には、各々のサイズや互いの間隔、さらには花柱の数(子房を構成する心皮の数)が異なるものが混在しており、それらの違いが多果の形態のバリエーションを豊かにしています。

2. 開花から1〜2ヶ月が経過した雌花序(幼果)

 
 開花から1ヶ月が経つと、殻斗の元になる器官から現れた殻斗によって、それぞれの雌花が包含される様子が明瞭になります(図3-1-5-1-5参照)。多果には、大きく分けて二つの形態があります。一つは、殻斗が複数の雌花をまとめて包含したもの。そしてもう一つは、殻斗が複数の雌花の一部か、あるいは全てをそれぞれ分離して包含したものです。便宜上このHPでは、前者の殻斗の形態を “ 堅果統合型殻斗 ” 、そして後者を “ 堅果分離型殻斗 ” と称します。