3-1-5-2. 雌花の特異性

 単一雌蕊の雌花は、我々が通常目にする単果の雌花序では極めて稀な存在ですが、多果の雌花序ではごくありふれたものです。私が独自に調査したところ、ブナ科の単一雌蕊は胚珠を包含しない、即ち子房の中身が空っぽなので、原理的に雌蕊は子房壁の厚みのオーダーまで微細化が可能です。参考までに、図3-1-5-2-1に肉眼で辛うじて確認できるサイズの単一雌蕊の雌花を示します。

 変形ドングリ “ 変形くん ” は、微細な単一雌蕊の雌花が開花直後に退化消滅して誕生したものであると私は考えていますが、該当する単一雌蕊の雌花は極めて微細で、なおかつ隣接する複合雌蕊の雌花の花被/花床の中に埋没しているため、外観からその存在を確認することは非常に困難です。

 図3-1-5-2-2は、開花後1ヶ月が経過した頃の単一雌蕊の雌花をもつ多果の幼果です。単一雌蕊の雌花は受精にあずかることができないため、開花後2ヶ月ほどが経過すると枯死してしまいます。ですから、単果の単一雌蕊の雌花は結実しませんが、多果を構成する単一雌蕊の雌花であれば、他の雌花が成熟することによって、結実したドングリにその姿が残ります。