31-3. 年成の部分的転換

 二年成のブナ科の樹木には、しばしば年成のルールを無視して異常成長する幼果が認められます。図31-3-1は、アベマキの幼果が異常成長した例ですが、このような幼果が出現する個体数が圧倒的に多く、かつそれらが前年に開花した果実に迫る勢いで成長するのは、私が調べたところ国産の樹木ではアベマキが唯一です。

 セクション31-1で、私は二年成というブナ科の樹木がもつメリットを明らかにしましたが、このメリットは果実が少産化傾向にある現代においては全く意味をもたないことから、将来的に二年成は一年成へとシステム転換を図るのではないかと考えています。そして、その後の調査で、遂に二年成から一年成へと転換した果実を見つけ出すことに成功したのです。ここでは、2つの異なる個体で転換を遂げた果実の事例を紹介します。
 現時点で、これらの果実が転換の始まりであると断言することはできませんが、少なくとも一年成のドングリは同じ個体の二年成のドングリとほぼ同程度の期間で結実できることが、これらの事例で明らかになりました。要するに、一年成と二年成の違いは、両者の物理的な構造(ハード)の差異によって生み出されたものではなく、単に年成を選択するスイッチの切り替え(ソフト)によって生み出されたものなのです。
31-3-1. 事例 1
31-3-2. 事例 2