ウバメガシQuercus phillyraeoides )
 ウバメガシの通常の花期は4〜5月ですが、個体によっては8〜10月に再び開花するものがあります。4〜5月の花期に出現する果軸は、コナラ属の中でもかなり短めで、5mm前後か長くてもせいぜい10mm弱といったところです(図30-2-4-1参照)。一方、8〜10月に出現する果軸は、それとは比べものにならないぐらい長くてたくさんの花を咲かせます(図30-2-4-2参照)。

 
 季節外れに出現する果軸には、現在のウバメガシではほとんど見ることができない多果が数多く含まれていることから、これらを太古の果軸が現代に蘇ったものだとすれば、果軸が縮小化していることは明白です。
 ところで、季節外れに開花する個体以外で多果を目にすることはとても珍しいのですが、普通の個体でもごく稀に不定期に多果を大量に結実するものがあります。そういう個体には、季節外れに出現する果軸と普通の果軸のちょうど中間形態とも言えるものが数多く見られます。図30-2-4-3と図30-2-4-4は、それらの個体から採集した果軸の例ですが、そこには太古の形質の指標となる多果も見られます。

 
 以上の点から、ウバメガシは国産のコナラ属の中で、果軸が現代の形質に近づくほど短縮化していることを端的に示すことができる好例だと私は考えています。


(補記)
 ウバメガシについては、花軸が縮小化していることをより端的に示す証拠があります。それは、セクション30-1でも紹介しましたが、季節外れに開花する個体で見つけました(図30-2-4-6参照)。現在の新枝と比べると、雄花軸と雌花軸の配列はほぼ同じですが、雄花軸が垂下した尾状ではなく、立ち上がった穂状になっていますが、これは現在の姿に進化する前の形態が、極めて稀に現存する個体で蘇ったものです。これを見ると、太古の昔には現在よりも雌花軸が長く、軸の数も多かったことがはっきりと判ります。