コナラQuercus serrata )
 コナラの中には、4月に開花してから秋の終わりまで断続的に開花する個体が存在します。それらの2度目以降の開花で出現する果軸は、いずれも一般的なコナラのものよりも長くてたくさんの雌花を咲かせます。さらに、そういう個体では、4月に開花した花軸も一般のものに比べて長く、中には60mmに達するものもあります(図30-2-3-1参照)。

 図30-2-3-2に、複数の個体から採集したコナラの果軸を示します。コナラの果軸はアラカシよりもシンプルで、季節外れに開花する個体と、そうでない個体とで形態の特徴が二分されます。

 一般の個体は果軸長が10〜20mmぐらいで、着果数は1〜3個が普通です [ 図中(g)〜(i) ] 。一方、季節外れに開花する個体は果軸の長短の差が激しいですが、平均すると一般のものよりもかなり長めで、着果数は多いものになると10個前後になります [ 図中(a)〜(f) ] 。

 
 また、一般の個体で多果を見かけることはまずありませんが、季節外れに開花する個体では、通常の花期でも稀に多果の雌花や幼果(外観で多果と判別できるもの)を目にすることがあります(図30-2-3-5参照)。

 多果を太古の形質の指標とするならば、アラカシと同様に、長い果軸をもつ季節外れに開花する個体は古い形質を現代まで多分に残しており、そうでない個体は古い形質をほぼ払拭したものと言えるのではないでしょうか。以上の点から、コナラは国産のコナラ亜属の樹種の中で、果軸が現代の形質に近づくほど短くなっていることを推察できる好例だと私は考えています。