アラカシQuercus glauca )
 シラカシとは対照的に、同じアカガシ亜属でもほとんど多果を目にすることがないのがアラカシです(*)図30-2-2-1に、複数の個体から採集したアラカシの果軸を示します。アラカシの果軸は、その長さからおよそ3つに大別できます。1つは、果軸長が10mm前後のもの [ 図中(g)〜(i) ] で、私の経験から言うと種全体の9割以上がこのタイプです。もう1つは、果軸長が20mm前後のもの [ 図中(e)〜(f) ] で、同じく経験的に1割弱ぐらいがこのタイプです。そして、ごく僅かながら、これら以外に果軸長が30mm以上あるもの [ 図中(a)〜(d) ] が存在します。
* コナラ属は樹種によらず多果を発現しますが、発現した多果のほとんどは、多果を構成する複数の雌花の内、1つを除いて開花直後に退化消滅してしまうので、それらが成長しても見た目は単果と変わりません。

 アラカシでは、極めて稀に果軸にたくさんの多果を着けた個体に遭遇することがあります。そういう個体は、どれも果軸長が20mm以上のものばかりで、果軸長が10mm以下では皆無です(**)。多果を太古の形質の指標とするならば、20mm以上の果軸をもつ個体は古い形質を現代まで多分に残しており、10mm前後の個体は古い形質をほぼ払拭したものと言えるのではないでしょうか。以上の点から、アラカシは国産のアカガシ亜属の樹種の中で、果軸が現代の形質に近づくほど短くなっていることを推察できる好例だと私は考えています。
** 果軸長が10mm以下でも稀に多果を目にしますが、1つの個体にせいぜい1個か2個程度です。

 
 アラカシについては、コナラ属の最終的な果軸の形態をイメージできる珍しい果軸が見つかっています。図30-2-2-1の(i)は殻斗だけで果軸が無いかのように見えますが、実は殻斗の付根に1mmに満たない微小な果軸が存在します。因みに、この果軸をもつ個体でドングリが結実した様子を撮影したものが図30-2-2-5です。

 コナラ属が少産化の傾向にあるならば、果軸はいずれ殻斗の付根にある小さな台座として残存するか、あるいは果軸が誕生する以前の枝に直接結実する姿
(***)に落ち着くのではないでしょうか。
*** セクション30-1の第1ステージを参照願います。