季節外れに出現した花軸を伴うウバメガシの新枝

珍品度 : ★★★★★

 
 ウバメガシは通常の花期(4〜5月)に開花してから、稀に8〜10月頃に再び花を咲かせるものがあります。ここに展示している新枝(花序含む)は、その時期に開花したものの中でも極めて珍しい形態をしています。

 通常の花期に出現するウバメガシの新枝には、上方に長さが10mmに満たない穂状の雌花軸、そして下方には垂下した尾状の雄花軸があります。一方、ここに展示している新枝には、上方にやや長めで数が多い雌花軸、そして下方には穂状に立ち上がった雄花軸がありますが、花軸のレイアウトは通常の花期のものと全く同じです。

 
 季節外れの開花では、多果や両性形態の花序が多数見られることから、遠い昔に消滅した形質を現代の樹木が甦らせたものであると考えられます。そういう視点で見ると、この展示品はコナラ属が誕生してから現在に至るまでの間に雌花軸が減数縮小してきたことや、虫媒による受粉形態(穂状花序)から風媒(尾状花序)へと転換したことを示唆する極めて重要な物証と言えるのではないでしょうか。

(本件に関連のある記事)
・ セクション 8 雑記228 : 穂状花序から尾状花序へ

・ セクション 22 季節外れのドングリの花 2項(ウバメガシ)

・ セクション 30 コナラ属の花序形態