32-1-2. 殻斗が合着した事例

 
 異なる殻斗が合着するか否かは、合着した雌花序における雌花の幾何学的な構造配置が大きく関与しています。図32-1-1-1と図32-1-1-2は、どちらもマテバシイの3果の雌花序が合着して、さらに一方の雌花序を構成する雌花の1つが、他方の雌花序を構成する雌花の1つと合着したものです。これらは、いずれも2つの雌花序から出現した殻斗同士が合着しました。因みに、マテバシイの雌花序において、雌花同士の合着は極めて稀にしか見られない事象です。

 
 では、図32-1-2-2の雌花序の成長過程を例に、互いの殻斗が合着する様子をご覧下さい(図32-1-2-3参照)。この図を見ると、一方の雌花序を構成する雌花の1つが、もう一方の雌花序を構成する雌花の1つと合着して、これら2つの雌花をまとめて包含するような形で両者の殻斗が合着しているのが判ります。

 
 合着した雌花序を構成する雌花同士が合着することで互いの殻斗は合着しますが、合着しないまでも極端に近接することで、同様に殻斗が合着した事例があります(図32-1-2-4参照)。

 この図のドングリは、パッと見6果のように見えますが、果軸と殻斗の接合部の面積が同じ果軸の3果以下の果数のものの2倍近くありました。ですから、図中に1〜3の番号をつけた殻斗からなる3果の雌花序と、4〜6の番号をつけた殻斗からなる3果の雌花序が合着し、なおかつそれらの中の3番と4番の雌花同士が極端に近接していたことで、互いの殻斗が合着したものと考えられます。因みに、マテバシイの雌花序では、合着に準ずるぐらい雌花同士が近接することも、合着するのと同じぐらい極めて稀にしか見られない事象です。

 最後に、マテバシイ属において異なる殻斗が合着する場合としない場合の雌花序の構造を図32-1-2-5にまとめます。この図をご覧になれば、マテバシイ属の殻斗が合着して形成されたものでないことは一目瞭然です。
 なぜなら、マテバシイ属の殻斗が合着したものであるならば、この図のケース2、もしくはケース3の右側に付記した形態のドングリ(極めて稀にしか見られないドングリ)によってマテバシイの樹上が埋めつくされることになるからです。

 私は他のセクションでも、マテバシイ属の殻斗が合着したものではないことを示唆するデータを多数提示してきましたが、ここで詳解したものは私の解釈を支持する決定的な証拠になると考えています。