32-1-1. 殻斗が合着しなかった事例 

 
 マテバシイ属において、近接した雌花序同士が合着(殻斗の元になる器官が合着)することは非常に珍しいのですが、合着した雌花序から出現した殻斗同士が合着することは、それよりもはるかに珍しい事象です。図32-1-1-1と図32-1-1-2は、どちらもマテバシイの2果と3果の雌花序が合着したものですが、これらは成長して互いの殻斗は合着しませんでした。

 
 これらの雌花序は、パッと見1つの殻斗の元になる器官に5つの雌花が咲いた5果のように見えますが、花軸とこれらの雌花序の接合部に着目すれば、これらが2つの雌花序が合着したものであることが判ります。

 具体的な例として、4果や5果が発現した花軸(果軸)を図32-1-1-3に示します
(*)。4果や5果の雌花序と同じ花軸にある、3果以下の果数の雌花序の花軸との接合部を見ると、4果以上はその部分の面積が3果と同じか、あるいは多少大きい(2〜3割増)ぐらいです。ところが、2つの雌花序が合着したものは、同じ花軸にある3果以下のものに比べて、その面積が倍近くもあるので、4果以上の果数の多果とは明確に区別できるのです。
* マテバシイでは、4果以上の果数の雌花序は極めて稀にしか発現しません。

 では、冒頭で紹介した2つ図の雌花序が合着しなかった証拠として、図32-1-1-2の雌花序を例にその成長過程をご覧下さい(図32-1-1-4参照)。
 開花してほぼ一年(図中の翌5月以降)が経過すると、互いの殻斗が合着したかのように見えますが、これは単に2つの幼果が成長して互いの殻斗が密着したからであって、そこに至るまでの成長過程を見れば、殻斗同士が合着しなかったことは明らかです。


(追記)
 参考までに、図32-1-1-1の合着した2つの雌花序についても、その成長過程を図32-1-1-5にまとめておきます。図32-1-1-2の合着した2つの雌花序と同様に、異なる2つの雌花序から出現した殻斗が合着していないのは一目瞭然です。