4. 葉的器官?それとも葉茎的器官??
 殻斗は葉と茎からなる葉茎的器官です。これは、表面に鱗片葉が散在するブナの殻斗(*)を見れば一目瞭然です。ただ、殻斗の元になる器官も殻斗と同じ葉茎的器官かというと、実はそうとは言えないかもしれません。なぜなら、殻斗の元になる器官から出現するのは雌花だけではなく、雌花以外のものが出現すると殻斗の元になる器官は殻斗に変化しないからです。

 図26-4-1は、あるコナラで撮影したものですが、殻斗の元になる器官から出現したのは雌花ではなく花軸でした。
 * 雑記272を参照願います。

 殻斗の元になる器官から花軸が出現する現象は、普通の個体ではまず見られませんが、季節外れに開花する特殊な個体では稀に目にすることがあります。

 図26-4-2は、図26-4-1よりも殻斗の元になる器官から出現した花軸が短い例です。左側の雌花には、殻斗の元になる器官から出現した花軸をかろうじて視認することができますが、右側は左側よりもさらに短い花軸に3つの雌花が咲いたことで、外観からは花軸の存在が非常に分かりづらいです。

 殻斗の元になる器官から出現した花軸も、普通のものと同様に成長します。勿論、そこに咲く雌花も他の果実と同様に結実します。但し、花軸が出現した殻斗の元になる器官は、最終的に殻斗に変化することはなく、苞(総苞)の姿のままドングリが実る頃に剥落します。この場合、苞は葉的器官ですから、殻斗の元になる器官は葉的器官ということになります。
 
 このように、殻斗の元になる器官はそこに出現するものによって最終的な形態が異なり、そこに雌花が出現した時だけ葉茎的器官である殻斗に変化するのです
。そんなわけで、殻斗の元になる器官は葉にも茎にも変化し得る、一種の万能器官のようなものではないかと私は考えています。

 ところで、殻斗の元になる器官に花軸が出現すると苞に変化するということは、もしかすると雌花と同じ花軸にある雄花の基部を包む苞も、実は雌花と同じ殻斗の元になる器官が変化したものだとは考えられないでしょうか(図26-4-3参照)。

 マテバシイ属(図26-4-4参照)やシイ属(図26-4-5参照)、そしてコナラ属(図26-4-6参照)の雌花軸の中には、稀に雄花と雌花がランダムに併存したものがあります。同じ花軸で雌雄の花の配置をどのように選択しているのか、私は長い間疑問に感じてきたのですが、仮に雌雄の花のどちらの基部にも共通の器官が存在するならば、両者を自由に選択することが可能であることに気づきました。


 以上の点から、私は雌花だけでなく雄花の基部にも殻斗の元になる器官が存在するものと考えています。

 最後に、このセクションの概要を図26-4-7にまとめておきます。