2. 開花した殻斗の元になる器官と幼果の形態
 殻斗の元になる器官に咲く雌花の形態は、大きく3つに分けられます(図26-2-1参照)。

 図26-2-2に、標準サイズの雌花とそれよりもかなり小さな雌花が咲いた幼果の例を示します。両者は一見すると別物ですが、どちらも殻斗と堅果から成る幼果であることは一目瞭然です(図26-2-2参照)。

 ところが、標準的な雌花とは比較にならないぐらい微細な雌花が咲くと、およそドングリとは思えない幼果が誕生します。ここでいう微細な雌花とは、胚珠を包含しない単一雌蕊(*)の雌花のことで、中には太さが僅か数10ミクロン(1ミクロンは千分の1mm)しかないものもあります。極端に微細なものは開花して間もなく退化消滅しますが、開花したことによって殻斗の元になる器官からは殻斗が出現します(図26-2-3参照)。
* 微細な単一雌蕊の雌花が実在すること、それらが複合雌蕊の雌花と違って胚珠を包含しないこと、単一雌蕊の雌花が咲いてから短時日で退化消滅する現象が実在することに関するデータは、セクション3-1-4、3-2-4を参照願います。

 
 この図を見ると、殻斗の元になる器官の先端の口が僅かに開いただけのものや、そこから殻斗の一部が露出したもの、さらには出現した殻斗が成長してリング状の鱗片を何層も形成したもの
(**)等、それらの形態は様々です。殻斗の元になる器官は、たとえ開花して直ぐに雌花が退化消滅してもその存在を記憶しており、それを包含するための殻斗を形成します。図26-2-3に見られる殻斗の形態の違いは、殻斗の元になる器官に咲いた雌花のサイズ(微細なものでも大小はあります)や、開花してから退化消滅するまでの時間などが関与していると思われます。
** 殻斗だけが成長するものは、成長しても図26-2-3の最下段右側(幅3mm弱)ぐらいのサイズが限度で、標準的なサイズの雌花(複合雌蕊)が開花した殻斗とは比べものにならないぐらい矮小です。