1. 殻斗の元になる器官とは?
 一般に、殻斗の元になる器官は雌花と一対であり、両者を合わせて雌花序と考えられています。マテバシイ属(マテバシイやシリブカガシ等)は、複数の雌花序が花軸の特定箇所に集結するので、それらが成長した殻斗は各々の雌花序が形成した複数の殻斗が合着したものと解釈されているのは、この考え方に基づいています。

 しかしながら、私がコナラ属の多果ドングリ(1つの殻斗が複数の堅果を包含したドングリ)やそれらを着果した果軸の構造を調べた結果、マテバシイ属とコナラ属の雌花や花軸の構造に顕著な差異は認められず、複数の殻斗が合着したように見える姿は、あくまで1つの殻斗が複数個の堅果を包含するために、その形態をフレキシブルに変化させたものであるという結論に達しました
(*)

 殻斗に対する一般的な解釈と実態のズレは、殻斗の元になる器官が雌花と一対であるという固定観念に端を発しており、殻斗の元になる器官が花軸(果軸)に独立して存在することが理解できれば、このようなミスマッチは解消され、全てのドングリの殻斗の構造や成り立ちをセルフコンシステントに説明できるようになると私は考えています(図26-1-1参照)。
* セクション25の1項を参照願います。


 私はこのHPの扉に、2017年 7月21日付けで以下の文言を挿入しました。

 これは、現在に至るまでの調査結果をもとに、私なりにドングリの素性を一文で表現したものです。文中に、殻斗の元になる器官が花軸(果軸)にあるとしてますが、その物証となるものが図26-1-2です。

 これはアラカシの例ですが、果軸の上にある小さな宝珠に似た形の物体が殻斗の元になる器官です。樹種によっては稀にしか見られませんが、アラカシやシラカシ、ウラジロガシでは割りと頻繁に目にすることができます。

 宝珠の口に相当する先端部分が閉じた状態のものは、開花しなかった殻斗の元になる器官、即ち器官そのものです。そして、この器官に雌花が咲くと宝珠の口が開きます。我々が通常目にするドングリの雌花は、この口が大きく開いてその中から雌花が姿を現した状態のものです(図26-1-3参照)。


 殻斗の元になる器官のサイズや形状は、平均的なもので幅が1〜1.5mm、高さが1mmぐらいです。同じ個体で見ると、平均的なサイズの殻斗の元になる器官に比べて極端に大きなものはあまり見かけませんが、それよりも小さなものであれば花軸(果軸)に数多く見られます(図26-1-4参照)。

 図26-1-5は、極端に小さな殻斗の元になる器官に開花したシラカシの幼果の例です。この図の幼果は、開花してからおよそ1ヶ月後に撮影したものですが、ほとんどは開花後1ヶ月が経過しないうちに枯死します(図26-1-6参照)。