4. 堅果を包含しない殻斗

 多果の中には、堅果を包含しない紐状殻斗をもつものが存在します(図3-1-4-11参照)。この紐状殻斗が堅果を包含する為に形成されたことは、図3-1-4-12をご覧になれば明らかでしょう
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* 詳細は、雑記130を参照願います。

 紐状殻斗は、堅果分離型殻斗の元になる雌花序を構成する2つの雌花の一方が、開花後短時日の内に退化消滅したことによって生じたものです。紐状殻斗が堅果を包含するかしないかは、雌花のサイズや開花してから退化消滅するまでの期間に依存していると私は考えています。

 では、具体的にどのような雌花が退化消滅するのでしょうか。調査の結果、胚珠を包含しない極めて微細な単一雌蕊の雌花である可能性が高いと考えられます。極めて小さいと言っても、図3-1-4-13のように肉眼で確認できるものは退化消滅しません。おそらく、雌蕊の直径が数10ミクロン(1ミクロンは1/1000ミリです)程度の微細なものだと推測しています。因みに、複合雌蕊の雌花は胚珠を包含するので、胚珠を包含しない単一雌蕊のように際限なく微細化できないので、退化消滅することはありません。

 堅果分離型殻斗では一方の雌花が退化消滅すると、図3-1-4-11のような紐状殻斗を形成しますが、堅果統合型殻斗では紐状殻斗は形成されません。後者の場合は、一方の雌花が退化消滅すると、もう一方の雌花が成長した堅果の表面にケロイド状の痕跡が残ります。セクション3-2で紹介している変形ドングリ “ 変形くん ” がそれに該当します。