クヌギとアベマキの堅果を識別する際に、首の形状が重要な要素になります。首の形状を表現するのに首長(=H3)と首幅(=W3)の2つパラメータに着目しますが、これらは言葉の定義の仕方によって値が大きく異なるので、ここでは以下のように定義します(図20-2-9参照)。
(首幅:W3の定義)
首を取り囲む果皮表面と首が立上る傾斜面に接線を引いて、それらが交わる点を首の底面の一端とし、その両端間の距離を首幅とする。
(首長:H3の定義)
首の底面端部から首の先端部までの堅果の高さ方向の距離を首長とする。
以下に、識別対象としてこれらのパラメータの有効性について検証した結果を示します。
まず、H3値に関する両者の個数分布を図20-2-10に示します。この図から、クヌギは首長が短い範囲に広く分布しており、H3<1.9mmでは総検体数の87%以上をクヌギが占めます。そして、H3<1.5mmではクヌギだけになります。
アベマキはクヌギとは逆に首長が長い範囲に広く分布しており、H3≧2.2mmでは総検体数の92%以上をアベマキが占めます。そして、H3≧2.6mmではアベマキだけになります。
さらに、堅果の大きさによる影響を排除するため、堅果長(=H1)に対してH3値が占める割合(=H3/H1)を算出して、同じように両者の個数分布を示します(図20-2-11参照)。
H3値をH1値で規格化しても両者の傾向は変わらず、堅果長に対して首長の割合が小さいH3/H1<0.06では、総検体数の96%以上をクヌギが占め、H3/H1<0.05ではクヌギだけになります。また、堅果長に対して首長の割合が大きいH3/H1≧0.11では、総検体数の92%以上をアベマキが占め、H3/H1≧0.13ではアベマキだけになります。
次に、W3値に関する両者の個数分布を図20-2-12に示します。この図から、クヌギはアベマキよりも首幅が広い範囲にも多く分布しており、W3≧3.2mmでは総検体数の86%以上をクヌギが占めます。
さらに、堅果の大きさによる影響を排除するため、堅果幅(=W1)に対してW3値が占める割合(=W3/W1)を算出して、同じように両者の個数分布を示します(図20-2-13参照)。
W3値をW1値で規格化すると、両者ともほぼ同じW3/W1値の範囲内に分布してしまうので、この値は識別パラメータとして有効ではありません。
上記の結果から、首の形状について両者の特徴をまとめると、一般的にクヌギは首長が短くて首幅が広く、逆にアベマキは首長が長くて首幅が狭い傾向にあることが判ります。
この傾向は、2つのパラメータ(H3:首長、W3:首幅)を組み合わせたH3/W3値が、両者を識別する上で非常に有効なパラメータであることを意味します。具体的に、この数値について両者の個数分布を表したものが図20-2-14です。
首長よりも首幅の方が大きいH3/W3<0.8では総検体数の90%以上をクヌギが占め、H3/W3<0.7ではクヌギだけになります。また、首長よりも首幅の方が小さいH3/W3≧1.2では、総検体数の88%以上をアベマキが占めます。
以上、首の形状に関して首幅(=W3)と首長(=H3)の値を分析した結果、双方に関連する4つのパラメータ [ =H3、W3、H3/W3、H3/H1 ] が両者を識別するのに有効であることが判りました。参考までに、これらのパラメータと首の形態の例を図20-2-15に紹介します。