2. 退化消滅する雌花(幼堅果)をもつ雌花序の構造

 セクション3-2-1の中で、変形ドングリ “変形くん” は広義の多果ドングリであり、成長過程の早期段階において、多果を構成する複数の雌花(幼堅果)が1つを除いて退化消滅した結果生じたものであると定義しました。
 但し、前項で紐状殻斗に辛うじて残存した幼堅果を見てもわかるように、雌花(幼堅果)の退化消滅という現象は開花して間もない頃に発生することが推測されます。では、実際にどのような雌花が退化消滅するのでしょうか。ここでは、私が取得したデータを基に、退化消滅する雌花をもつ多果の具体的な雌花序の構造を提案します。

 ブナ科の植物の雌蕊(子房)は、複数の心皮から成る複合雌蕊が基本です。一般に、雌蕊は3枚の心皮から成ると言われていますが、実際には2〜5枚程度のバラツキがあります。そして、それらの中には極めて稀に1枚の心皮から成る単一雌蕊も存在します。

 単一雌蕊は、単果の雌花序では滅多に見られませんが、複数の雌花をもつ多果の雌花序では高い頻度で発現していることが調査の結果明らかになっています。図3-C-2-1に、単一雌蕊の雌花が成長した幼堅果を含む多果の幼果の例を示します。

 さらに、単一雌蕊の雌花に由来する幼堅果の内部を観察してみると、胚珠を包含しないことが判りました(図3-C-2-2参照)。胚珠を包含しないということは、複合雌蕊に比べて単一雌蕊は極端にスケールダウンが可能であることを意味します(*)
* 極端に小さくなると、雌花に水分や養分を供給する維管束のパスが十分に確保できず、早期に消滅する可能性が高くなります。

 これらの調査結果から、私は成長過程で退化消滅する雌花として極小の単一雌蕊の雌花を想定しました。そして、多果を発現しやすいシラカシでこれに該当するものを探索した結果、極めて小さな単一雌蕊の雌花が数多く存在するのが明らかになりました。さらに、毎年のように変形ドングリ “ 変形くん ” をたくさん結実するアラカシの個体からも、微細な単一雌蕊の雌花が多数見つかりました(図3-C-2-3参照)。

 図3-C-2-3の右側の写真にある単一雌蕊は、太さが僅か50ミクロン(1ミクロンは1mmの1000分の1)程度しかありませんが、おそらく退化消滅するものはこれよりもさらに細く、ほとんど花被に埋没して外部からは確認出来ないぐらい極微なものではないかと私は推測しています。

 以上のデータを基に、2果の雌花序を例に挙げて、変形ドングリ “ 変形くん ” を生み出す雌花序の具体的な像を図3-C-2-4に提案します。