3-2-3-6. 殻斗の形状 その2

 セクション3-2-3-5では、その種類に特有の殻斗の形状が堅果の変形を誘起するケースについて紹介しました。このセクションでは同じ殻斗の形状でも、開花した雌花序の殻斗の元になる器官に、既に変形を促す萌芽が存在するケースについて紹介します。

 ドングリとは、
花軸にある殻斗の元になる器官に咲いた花が結実したものです。殻斗の元になる器官は、樹種を問わず図3-2-3-6-1にある宝珠のような形をしており、そこに雌花が咲くと先端の口の部分が開きます(図3-2-3-6-2参照)。

 
 ところが、稀にお釈迦様が座る蓮の花びらのように、殻斗の元になる器官が分裂したものを目にすることがあります(図3-2-3-6-3参照)。殻斗の元になる器官が複数に分裂した場合、各々の断片から殻斗が出現します。殻斗は断片のまま成長することもあれば、成長するにつれて隣接したもの同士が合着することもあります。そのため、成熟した殻斗には亀裂が生じたリ、部分的に激しい捩れやうねりのようなものが生じます(図3-2-3-6-4参照)。

 
 殻斗が激しく変形したドングリについて、それが殻斗の元になる器官の分裂によるものか否かを判定するには、殻斗の内側にある離層の痕跡を見れば判ります。

 図3-2-3-6-5は、殻斗の元になる器官が分裂したものが成長したシラカシの殻斗の例です。このように、殻斗はハチャメチャに変形していますが、堅果と殻斗を繋いでいた離層の痕跡は、普通のものと同様にきれいな円形です。

 一方、同じように殻斗に亀裂が入ったり変形する要因として、多果の発現があります。図3-2-3-6-6は、2果として発現しながら一方の雌花が退化消滅したことによって変形したウバメガシの殻斗の例です。これらの離層の痕跡を見ると、殻斗が変形した部位(もしくは亀裂が入った部分)に向かって離層の痕跡が引きずられるように延伸しているのが判ります。これは、変形した部位に存在した雌花(退化消滅した雌花)に対して水分や養分を供給する為に、維管束(離層の痕跡)が延伸したことによるものです。


[ 関連記述 ]

・ セクション8 “ 雑記202: ちゃんと包んでください ”
・ セクション8 “ 雑記296: 分裂した殻斗の元になる器官 ”
・ セクション8 “ 雑記349: 合着する殻斗片 ”