3-2-3-5. 殻斗の形状 その1

 同じ個体に結実したドングリなのに、堅果の形が驚くほどバラエティに富んだものと言えば、それはウバメガシでしょう。図3-2-3-5-1は典型的なウバメガシのドングリですが、捩れたり膨らんだりと実に様々な形をしています。

 この図の(A)の堅果は、セクション3-2-3-1で紹介した2つの種子が同時に発現したものですが、これ以外にもかなり変形しているものが目立ちます。他のコナラ属のドングリ(コナラ、アラカシ等)はほとんどがきれいな楕円体なのに、なぜウバメガシのドングリはこんなにも歪な形をしているのでしょうか。

 ウバメガシのドングリが変形しやすい理由を探る為に、変形しているものとそうでないものを比較してみました(図3-2-3-5-2参照)。すると、変形していない(a)の殻斗は奥行が深くて肉厚なのに対し、(b)の殻斗は浅くて薄っぺらであることが判りました。どうやら、堅果と殻斗の形状には強い相関がありそうです。

 
 そこで、ウバメガシを含めた様々な種類のドングリについて、殻斗と堅果の主だった構造物の寸法を計測してみました(表3-2-3-5参照)。
この表にあるドングリは、種類毎に平均的な形態を選びました。

 この表を見ると、ウバメガシのドングリには4つの特徴が有ることが判ります。

(特徴1) 殻斗が堅果を被覆する割合が小さい(表中D/B値参照)
(特徴2) へその直径が殻斗の内径に比べて小さい(表中A/C値参照)
(特徴3) へその直径に対する堅果の高さが大きい(表中D/C値参照)
(特徴4) 他の種類に比べて果皮が薄い


 これらの特徴から、ウバメガシの殻斗の形状が堅果の形態に及ぼす影響について以下に考察します。
(特徴1) 殻斗が堅果を被覆する割合が小さい
 
 種子を覆う果皮は、殻斗と堅果の接続部分であるへそを起点に成長するので、この部分に近い果皮ほど誕生したばかりの柔軟な組織に近い状態です。実際に未熟なドングリを観察してみると、殻斗で被覆されている部分(黄色〜薄黄緑色)と露出している部分(緑色〜茶色)とでは、果皮の色が大きく異なっており、両者を指先で軽く押してみると明らかに前者の方が柔らかいことが判ります。
 これらの状況から推察すると、新たに伸長した果皮が硬化してその柔軟性を失うまでの間に、殻斗にはその内壁の形状に合わせて堅果を整形する効果があるものと考えられます。だとすると、誕生したばかりの果皮の組織を出来るだけ長くその内側に保持するような、深くて厚みのある殻斗の方がその効果は高いと言えますが、残念ながらウバメガシの殻斗は浅くて薄っぺらでしかも裂けやすいので、そういう効果はあまり期待できません。

(特徴2) へその直径が殻斗の内径に比べて非常に小さい

 ウバメガシのドングリは、他の種類に比べてへそが極端に小さいです。堅果のへそに該当する殻斗と堅果の接続部分が小さいと、へその形状の微妙な非対称性や構造的な不均質性が、堅果の形状に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
 例えば、図3-2-3-5-2 (b)に見られるように、殻斗の内側のへその痕跡に局所的な歪みがある場合、歪みのある部分とそれ以外の部分とでは、そこから首に至るまでの果皮の伸長量が堅果の高さ方向で異なるため、それによって堅果に捩れが生じると考えられます。

(特徴3) へその直径に対して堅果の高さが非常に大きい

 特徴2で、へそが小さいと形状の非対称性や構造的な不均質性によって、へそから首に至る果皮の伸長量に不均衡が生じると説明しましたが、これは堅果長が長いものほど助長されると考えられます。

(特徴4) 堅果の果皮厚が極めて薄い

 ウバメガシの果皮は国産のドングリの中で最も薄く、その厚みは平均すると僅か150μm程度です。実際に、堅果を割って中の種子を取り除いた果皮を指先で摘まんでみると、そのあまりの脆さに驚かされます。このように、ウバメガシの果皮は非常に薄くて脆いので、種子の表面を保護する役目は果せても、急激に成長する種子の形状を矯正する効果はあまり期待できません。

[ 関連記述 ]

・ セクション8 “ 雑記038: 4つ子のドングリ発見! ”