3-2. 変形ドングリ

 図3-2-3-4-1の2つのクヌギの堅果は、一見するとセクション3-2-1で紹介した変形ドングリ “ 変形くん ” と似たような形をしていますが、これらの堅果には “ 変形くん ” にあるへそを起点とした多果の痕跡がありません。ですから、明らかに “ 変形くん ” とは別の要因で誕生したものと考えられます。とりわけ(a)の堅果は、へそから首に至る軸線が堅果の内部でほぼ直角に曲がっています。

 これらの変形要因を調べるために、形がよく似たアラカシのドングリを調査してみました(図3-2-3-4-2参照)。このドングリを高さ方向に切断すると、堅果が捩れている側の果皮が、それ以外の部分よりもかなり厚くなっていることが判りました(*)

 このドングリは、虫瘤が無い点を除くと、セクション3-2-3-2で紹介した、タマバチが寄生したアラカシの堅果に酷似していることから、両者の共通点に着目した結果、このドングリも殻斗と堅果を繋ぐ境目の辺りに何らかの異常があって、堅果の捩れや果皮の不均質が生じているものと考えられます。
* 図3-2-3-4-2でアラカシの片側の果皮が厚くなっているのは、欠陥によって果皮の伸長が停止したのではなく、鈍化したことによるものと考えられます。

 以上の点から、図3-2-3-4-1の変形ドングリが誕生するメカニズムを以下に推測します。
 図3-2-3-4-3は、図3-2-3-4-1(a)の変形ドングリが誕生するまでの過程をドングリの断面模式図で表したものです。図3-2-3-4-1(a)の果皮には、肩の辺りに首を中心とした同心円状の痕跡がありますが、これは成長の初期には堅果に捩れが生じていなかったことを意味します [ 図中:初期状態 ] 。

 ところが、ある時点で殻斗と堅果を繋ぐへその一部に、構造的な欠陥が発生したと仮定しましょう [ 図中(1)] 。すると、その時点で欠陥が発生した部位の果皮の伸長が停止します
(*)。欠陥が発生していない部分は発生以前と同じように果皮が伸長するので、堅果は欠陥部位を回転中心としてそのまま成長します [ 図中(2)] 。そして、結実するまでその欠陥が解消されなければ、図3-2-3-14(a)のような変形ドングリが誕生するというわけです [ 図中(3)] 。
 
 一方、図3-2-3-4-1の(b)の変形ドングリについては、図3-2-3-4-3の(2)の状態で、殻斗と堅果の接続箇所に発生した欠陥が解消し、それ以後は欠陥のない部位と同じように果皮が伸長したので、首から肩にかけての部位にだけ歪が生じたものと考えられます。