ブナ科の樹木の葉や枝に寄生するハチやハエの仲間がいることは、寄生昆虫学の世界で広く知られていますが、ドングリに寄生する昆虫がいることは意外に知られていません。私はドングリの形態について調査する過程で、複数のタマバチの仲間が堅果の内部に寄生して虫瘤を形成し、それが原因で堅果が異様な姿に変形することを明らかにしました。
図3-2-3-2-1と図3-2-3-2-2は、それぞれクヌギとアラカシの堅果にタマバチの仲間が寄生した例です。堅果の内部には複数の虫瘤が形成されていますが、これらはドングリの種類や個体によって大きさや数量が異なります。
虫瘤とドングリの形態を関連づける上で一つ注意しておかなければならないのは、堅果の内部に虫瘤が形成されたからといって、必ずしも堅果が変形するわけではないということです。虫瘤の大きさにもよりますが、虫瘤の一端がへそに隣接した箇所にあると堅果は顕著に変形しますが、それ以外の箇所にある場合は、果皮に微かな突起が現れる程度で、目立った変形は認められません。
ドングリが熟すまでは、殻斗と堅果が維管束で繋がっており、堅果はへそを通して維管束から養分や水分を吸収します。このように、堅果はへそを起点にして成長するので、その周辺に虫瘤のような障害物があると、局所的に堅果の成長が著しく阻害され、ドングリの形態に大きな影響を及ぼすものと考えられます。
一方、同じドングリでも殻斗(果軸)に寄生する昆虫の例は幾つか知られているようです。図3-2-3-2-3は、私が見つけたコナラの殻斗(果軸)にタマバチが寄生した例です。この部分にタマバチが虫瘤を形成すると、堅果に繋がる維管束が分断、もしくは狭窄されて、ほとんどの堅果は未熟なまま枯死してしまいます。
[ 関連記述 ]
・ セクション8 “ 雑記020: ついに出た! 〜ドングリに潜む謎の虫〜 ”
・ セクション8 “ 雑記032: 自然が創り出した秘の芸術作品 ”
・ セクション8 “ 雑記036: 寄生虫が創出する変形の美 ”
・ セクション8 “ 雑記040: ドングリの種類の数だけ存在するの? ”
・ セクション8 “ 雑記043: 奇妙なコナラのドングリから虫が出てきました ”
・ セクション8 “ 雑記045: 謎の虫は、全て同種のタマバチなの? ”
・ セクション8 “ 雑記049: 新鮮な虫瘤がいっぱい! ”
・ セクション8 “ 雑記050: 何も出て来ませんでした ”
・ セクション8 “ 雑記064: 遅れて来た第二のタマバチ? ”
・ セクション8 “ 雑記071: タマバチが堅果に産卵する時期について ”
・ セクション8 “ 雑記076: 羽化する直前のタマバチの蛹 ”
・ セクション8 “ 雑記079: 学名: Synergus itoensis ”
・ セクション8 “ 雑記104: 仙台にて 〜ひとときのドングリ採集〜 ”
・ セクション8 “ 雑記113: たぶん、文献未記載種でしょう ”
・ セクション8 “ 雑記124: 見慣れない奴が出て来ました ”
・ セクション8 “ 雑記132: マテバシイのドングリの中から... ”
・ セクション8 “ 雑記153: 間違って産卵したんでしょうか? ”
・ セクション8 “ 雑記183: ウバメガシの堅果に見られる激しい凹凸 ”
・ セクション8 “ 雑記248: 遠く離れた小さな島にもいました☆ ”
・ セクション8 “ 雑記253: 産卵シーンを目撃しました ”
・ セクション9-1-1 “ 堅果に寄生するタマバチの仲間 ”
・ セクション9-1-2 “ 殻斗に寄生するタマバチの仲間 ”