14. 4本以上の花柱をもつドングリ

 セクション14-1、14-2で、クリ属を除くドングリには2〜5本の花柱があることを指摘しましたが、はたしてそれ以外の数のものは存在しないのでしょうか。

 被子植物の雌蕊は、ほとんどが複数の心皮(=合成心皮)から成る複合雌蕊ですが、中にはモクレン科やマメ科の植物のように1枚の心皮(=離生心皮)からなる単一雌蕊もあります。
 ドングリを結実するブナ科の植物は基本的に複合雌蕊ですが、雌蕊を造るのに最低2枚の心皮である必然性はありません。ですから、花柱を1本しかもたないもの、即ち1枚の心皮から成る単一雌蕊が存在しても何ら不思議ではありません。

 多果を構成する雌花(堅果)の中には、しばしば1本の花柱をもつものを目にします。図14-3-1は、シラカシの3果の幼果の幼堅果に見られる1本の花柱の例です。花柱の軸の太さが隣接する3本の花柱の1本分に相当することや、先端の黒く変色した部分が球形であることから、これは単一雌蕊に由来した幼堅果だと考えられます。

 一方、単果では1本の花柱をもつものは極めて稀にしか存在しません。図14-3-2はアラカシで見つけたものですが、これ以外にシラカシで見たものも含めて、これまでに目撃したのは3例のみです。
 多果、単果を問わず、単一雌蕊の雌花に由来する幼堅果については特筆すべき点が一つあります。それは、子房が胚珠を包含しない、即ち種無しだという事です。


 前記のデータから、花柱の数の下限が1本であることは判りましたが、数が多いものは一体どれぐらいあるのでしょうか。一般によく目にするのは5本までですが、稀に6本以上のものにも遭遇することがあります。私がこれまで目撃した中で最も多かったのは8本です(図14-3-3参照)。
 この幼果の内部構造を見ると、8個の子室の各々に胚珠が2個ずつの計16個なので、この雌蕊は明らかに8枚の心皮で構成されているのが判ります。
 各々の胚珠は、子房の中心軸に対して同心円状に配置しておらず、子房の中にランダムに収納されているような感じです。子房の中には、胚珠を包含するスペースにまだ余裕がありますので、8本を上回る9本以上の花柱をもつドングリが存在する可能性は十分にあると思います。


(追記)
 このセクションを掲載してから10年が経ちましたが、その間、花柱の最多数は8本から16本(図14-3-4参照)に倍増しました。花柱の数が多い雌花(幼果)は、種類を問わず多果や両性形態の花を大量に発現する個体に見られますが、とりわけ季節外れに開花するコナラやナラガシワ(*)では10本以上のものも珍しくありません。

* セクション22を参照願います。