15-2. 4果以上の多果の探索 

 4果以上の多果の生態を調べるに当たって、これまでの経験からコナラ属の中でも例外的に多果を発現し易いシラカシにターゲットを絞って探索することにしました。
 
 探索1年目には、シラカシのドングリが成熟する10月下旬〜12月にかけて京阪神全域を調査しました。ところが、3果までは比較的容易に見つかるのですが、6果はおろか4果すら目にすることはありませんでした。
 そこで、探索2年目〜4年目は、普通の単果に比べて多果が成熟する割合が極めて低く、ほとんどは幼果の段階で脱落する点(*)に着目して、成熟する2〜3ヶ月前の9月上旬以降に落下する全ての幼果を対象に調査しました。ところが、それらの中にも4果以上の存在は確認出来ませんでした。
* セクション3-1-6を参照願います。

 そして、探索開始から5年目には、シラカシの開花からおよそ1ヶ月後の7月の初頃まで探索時期を拡げて、全ての幼果を採集し、その中から4果以上のものを探し出すことにしました。口で言うのは簡単なんですが、これは容易な事ではありませんでした。なぜなら、成熟する2〜3ヶ月前のドングリと違って、開花後1〜2ヶ月しか経過していない幼果は、殻斗の幅が僅か数mmしかないので、ほとんど地を這うようにして採集しなければならなかったからです。
 
 そこで、特定の個体に注力して幼果を採集する為に、調査対象となるシラカシを徹底的に厳選することにしました。選定に当たっては、これまでに多果を大量に発現した実績(数千個以上)があるもので、なおかつ人通りがほとんどなくて樹木の下の地面が土で覆われていることを条件としました。その結果、幸いな事に自宅の近隣にある深田公園と掖谷公園で、私の条件にマッチした個体 [ 図15-2-1〜図15-2-3参照 ] がいくつか見つかりました。
 そして、最終的に両園の6つの個体を選定し、個体ごとに最低でも週に1度以上は約3〜4時間/日ぐらいかけて、可能な限り全ての幼果を採集しました。

 こうして徹底的に調査した結果、計4つの個体から1つの殻斗の中に4個以上の堅果を包含した幼果を採集することに成功しました(表15-2参照)。これらの幼果は、全て開花後2ヶ月以内に落下したものばかりで、大量に多果を結実する個体の中でも、ごく限られたものでしか発現しないことが判りました。

 これらの個体の中で、4果以上の多果をたくさん採集することが出来たシラカシAについては、さらに貴重なデータを得ることが出来ました。図15-2-4は、シラカシAから採集したドングリ(幼果含)の果数に対する数量を棒グラフにまとめたものです。右側のグラフは、左側のグラフの縦軸を対数表記したものです。

 今回、特定の個体に着果したドングリ(ほとんどは幼果)の総数を初めて調査しましたが、総計3万個以上もあったことに驚きました。
 本来、樹木全体をネットで覆い尽くさなければ、全ての果実(雌花、幼果含む)を採集することは出来ません。ですから、このグラフにある数量は完璧なものとは言えませんが、この個体に関しては3日と空けず落下したものを採集し続けたので、1割程度の誤差範囲内で採集出来ていると私は確信しています。

 果数ごとの採集数量を見ると、3果が2果の数量をはるかに上回っており、樹木全体の25%以上を占めていることが判りました。この傾向は、コナラ属が分化した頃には3果を頂点とした果数分布を示していたことを示唆しているのかもしれませんが、他の個体で同じようなデータを取得していないので、現段階では何とも言えません。

 一方、堅果数が3果を超えるものについては、堅果数の増加と共に数量がほぼ指数関数的に減少していることが判りました。このように、3果が個体全体の1/3を占めているにも関わらず、6果が僅か2個しか発現していない状況から推察すると、現存するコナラ属の樹木において、1つの殻斗が包含する堅果は多くても6個ではないかと考えられます。
 ただ、コナラ属が分化した頃には、単果や2果の割合が現在よりも極端に少なかった(あるいはほとんど存在しなかった)ことが予想されるので、4果以上の多果が占める割合は現在よりもはるかに多かった可能性が考えられます。もしかすると、その頃には6果よりもさらに高次の7果ぐらいまでは存在したのかもしれません。