何事にも飽きっぽい私が、いまだにドングリに興味をもち続けている理由は、熟したばかりのドングリがもつ宝石のような色艶と形態の多様性にあることは、既にこのHPのセクション1で申し上げた通りです。
ところが、長い間ドングリをやっていると、美しさとは真逆の不細工な形をしたドングリに対して、美しいドングリとは少し違った意味で魅かれるようになりました。図15-1-1にあるのは、その不細工なドングリの典型例です。不細工とは言っても、目を覆いたくなるような無様なものではなく、どこか愛嬌のある形をしています。私は、そんなドングリに最高の愛情を注いで “ 変形くん ” と命名しました。そしてこの愛称をつけて以来、これらのドングリ達の素性を明らかにすることが、私の最大の関心事になってしまったのです。
“ 変形くん ” の素性を解明する為に、私はこれまで独自に調査を続けてきました。その結果、 “ 変形くん ” と多果の形態上の類似点が明らかになり、“ 変形くん ”の素性について以下の仮説(*)を提案するに至りました(図15-1-2に図説)。
(仮説)
変形ドングリ “ 変形くん ”は、広義の多果ドングリ(不完全な多果ドングリ)であり、成長過程の早期段階において、殻斗の元になる器官に咲いた複数の雌花(もしくは幼堅果)が、1つ個を除いて退化消滅したことによって生まれたドングリである
* 変形ドングリ “ 変形くん ” の詳細については、セクション3-2-1を参照願います。また、仮説の中にある雌花が退化消滅する現象が実在することや、退化消滅する雌花が単一雌蕊をもつものであることについては、セクション3-1-4を参照願います。
ところが、この仮説を立ててから少し困った事例が現れました。それは、“ 変形くん ” に見られる雌花(幼堅果)が退化消滅した痕跡が、それまでは1つか2つしか見られなかったのですが、3つ以上あるものが見つかったのです。私の仮説に従えば、前者の場合は殻斗の元になる器官に2つか3つの雌花が咲いた事になるのですが、後者の場合は4つ以上の雌花が存在したことになってしまうのです(図15-1-3参照)。
これまでに、私がコナラ属で目にしたことがあるのは、せいぜい1つの殻斗の中に3個の堅果がある、3果でした。コナラ属が分化した頃には、3果が一般的であったという話を聞いたことがありますが、4果以上のものについては実際に目にしたことがありませんでした。
俄かに、仮説に対する自信が揺らいできたのですが、どのような形であれ4果以上を見つけださない限り、この仮説は机上の空論になってしまいます。
それ以来、まるで雲を掴むような探索の旅を続けてきたのですが、2011年の8月、とうとう私の中で思い描いていた想像上の多果に巡り合うことが出来たのです(セクション15-2に続く)。