15-1. 変形ドングリに見られる多果の痕跡

(注) このセクションに掲載している写真やデータについては、一切の転載を許可しておりません。

 採集を始めて10年近くになる私が、未だにドングリに魅せられ続けている理由は、熟したばかりのドングリがもつ色艶のいい宝玉の様な姿形とその形態のバリエーションにあることは、既にこのHPのセクション1で申し上げた通りです。

 ところが、長い間採集を続けていると、美しさとは全く正反対の不細工な形をしたドングリが、しばしば私の目に飛び込んでくるのです。図15-1-1にあるものはその典型的な例ですが、不細工とは言っても、これらは目を覆いたくなるような無様なものではなくて、どこか味わい深く、愛嬌のある形をしています。私は、そんなドングリ達に最高の賛辞を呈して “ 変形くん ” と命名しました。そして“ 変形くん ” の愛称をつけて以来、どうしてこんな形のドングリが生まれてきたのかという事が、私の最大の関心事になってしまったのです。

 その謎を解明する為に、これまで独自に調査を続けてきました。その結果、 “ 変形くん ” と多果ドングリの形態上の類似点が明らかになり、“ 変形くん ”の素性について以下の仮説(*)を提案するに至りました。

(仮説) 

“ 変形くん ”は、ドングリの元となる雌花〜幼果の段階で、総苞の中にある複数の雌蕊(もしくは初期幼果)の中で1つを除いた他のものが、何らかの原因で退化・消滅したことによって生まれたドングリである(図15-1-2参照)
* 変形ドングリ “ 変形くん ” の詳細については、セクション3-2-1を参照願います。また、仮説の中にある雌蕊が退化・消滅する現象が現実に起こりうるものであることについては、セクション8の雑記130で実証済です。

 ところが、この仮説を立ててから非常に困った事例が現れました。それは、“ 変形くん ” に見られる雌蕊(もしくは初期の幼果)が退化・消滅した痕跡が、大抵の場合は1つ乃至2つしか無いのですが、極めて稀に3つ以上存在するものが出てきたのです。私の仮説に従えば、前者の場合は、1つの総苞の中に2つ、乃至3つの雌蕊が存在していた事を意味するのですが、後者については4つ以上の雌蕊が存在したことになってしまうのです(図15-1-3参照)。

 これまでに、私がコナラ属のドングリで目にしたことがあるのは、せいぜい1つの殻斗の中に3つの堅果がある、3果のドングリまでです。太古の昔、中生代の白亜紀から新生代にかけて、コナラ亜科とクリ亜科がブナ科の祖型から分化した当時は、コナラ属でも3果のドングリが一般的であったという話を聞いたことがありますが、4果以上のものについては、実際に目にしたことがありません。
 俄かに、仮説に対する自信が揺らいできたのですが、どのような形であれ4果以上のドングリを見つけることが出来ない限り、この仮説は机上の空論になってしまうのです。

 それ以来、まるで雲を掴むような探索の旅を続けてきたのですが、2011年の8月、とうとう私の中で思い描いていた想像上のドングリに巡り合うことが出来たのです(セクション15-2に続く)。