11-2. 花柱とその周辺部の構造

 へその反対側にある小さな突起物を花柱と言います。アラカシやウラジロガシのように、丸いドングリに突き刺さる小さな棘のようなものから、クリのように堅果長の10%を超える長いものまで、花柱の形態は様々です(図11-2-1参照)。
 肉眼ではよくわからないこの部分を走査型電子顕微鏡で拡大してみると、特撮映画に出てくる宇宙人や銀河を彷彿させる奇妙な世界が見えてきました。このセクションでは、それらの中から代表的なものを幾つか紹介します。


アラカシ( Quercus glauca )


図11-2-2. アラカシの花柱とその周辺部の構造

 アラカシの花柱とその周辺部の構造は、国産のドングリの中でも最もシンプルで、なおかつ頑丈そうなイメージがあります。図11-2-2の(a1)、(a2)を見ると、堅果の最表面を包む表皮によって花柱の下半分がすっぽりと覆い尽されているのが判ります。へそと花柱の先端を除いて堅果全体を被覆しているこの表皮は、子房を包む花被/花床が変化したもので、花柱の周辺から遠ざかるにつれて急激に薄くなり、胴回りでは僅か10ミクロン前後の厚みになります。

カシワ( Quercus dentata )


図11-2-3. カシワの花柱とその周辺部の構造

 カシワの花柱は、図中(a)のような杓文字か孫の手のような形をしています [ 図中(a1)、(a2)参照 ] 。カシワの長い首の先端の花柱を切除すると、花柱が長い円筒形の表皮に包まれていることが判ります[ 図中(b) 、(b1)参照 ] 。この表皮は、雌花の子房を包む花被/花床が変化したものです。

コナラ( Quercus serrata )


図11-2-4. コナラの花柱とその周辺部の構造

 花柱とその周辺部の構造は、ドングリの種類は勿論の事、同じ種類でも個体間で大きく異なります。図11-2-4は3つの異なる個体から採集したもので、先端付近が激しく分裂して花びらの様に見える花柱もあります [ 図中(c)参照 ] 。

ツクバネガシ( Quercus sessilifolia )


図11-2-5. ツクバネガシの花柱とその周辺部の構造

 ドングリの中には、花柱が4本や5本あるものが数多く存在します。図11-2-5は、ツクバネガシで花柱が4〜5本あるドングリの例です。
 コナラ属の雌花の子房は3枚の心皮で形成されていると言われていますが、それはあくまで標準的なものであって、実際は2〜5枚程度のバラツキがあります
(*)。花柱は分裂したり合着したりするので、外観だけでは正確に数を判別できない場合もありますが、概ね花柱と心皮の数は一致します。
* 詳細は、セクション14を参照願います。

 上記以外に、特徴的な花柱とその周辺部の構造(堅果の首の辺り)をもつドングリをいくつか紹介します。
クヌギ( Quercus acutissima )
イチイガシ( Quercus gilva )
ウバメガシ( Quercus phillyraeoides )
ナラガシワ( Quercus aliena )
ウラジロガシ( Quercus salicina )
スダジイ( Castanopsis sieboldii )
マテバシイ( Lithocarpus edulis )
Black Oak( Quercus velutina )