6-4. 大泉緑地の奇妙なドングリ その3

 図6-4-1は、大泉緑地で採集したコナラのドングリです。どちらもありふれたコナラのドングリに見えますが、一方は稀に見る変わり者のドングリです。

 図6-4-2は、図6-4-1のドングリの殻斗を内側から見たところです。一見すると、(a)よりも(b)の殻斗はかなり肉厚に見えます。私がこの殻斗を2年前に初めて採集した時には、単に分厚い殻斗という印象しかありませんでした。ところが、最近になって(b)の殻斗が非常に特異な形態であることに気づいたのです。

 図6-4-3は、図6-4-2の殻斗の高さ方向の切断面です。見ての通り、(a)と(b)の殻斗の厚みはほとんど同じですが、(b)の殻斗は鱗片が外側から内側に侵入しています。侵入量は極僅かですが、明らかに普通のコナラの殻斗には見られない特異な形態です。
 セクション6-2で紹介したクヌギやアベマキの殻斗ほどではありませんが、鱗片が殻斗の内側に侵入する現象が、コナラ属の他の種類のドングリにも存在したことに、とても驚かされました。

 このドングリについて調査した結果を以下にまとめます。

1. 10月上旬〜中旬にかけて、このドングリを結実したコナラから総計1227個の殻斗を採集しました。鱗片の侵入状態に着目して形態を分類すると、殻斗の裾の全周から鱗片が侵入しているものが全体の74%(=913個/1227個)でした。また、部分的に鱗片が侵入しているものが全体の18%(=218個/1227個)、そして全く鱗片が侵入していないものが全体の8%(=96個/1227個)を占めていました(図6-4-4参照)。セクション6-2で紹介したクヌギやアベマキの殻斗と比較して、特異な殻斗が発生する割合が際立っていました。

2. このドングリの堅果を見ると、成熟したものは普通のドングリと同じような形をしていました(図6-4-1(b)参照)。鱗片が殻斗の内側に侵入してきたことで、堅果が変形する様子が認められませんでした。ただ、殻斗の裾から部分的に鱗片が侵入したものについては、大多数が鱗片の侵入が無い方向にやや捻じれた形をしていました(図6-4-5参照)。


(追記)
 その後の調査で、鱗片が殻斗の内側に侵入する理由が明らかになりました。詳細は、雑記179を参照願います。