6-3. 大泉緑地の奇妙なドングリ その2

 みなさんは、堅果の一部が異常に膨らんだドングリをご覧になったことがありますか(図6-3-1参照)。毎年ドングリを拾いに出掛けると、行く先々でこの様なドングリを見かけますが、1つの個体から見つかる数はごく僅かです。

 ところが、驚いたことに大泉緑地には、この奇妙な形をしたドングリが全体の結実量の8割以上を占めるクヌギがあるのです。図6-3-2に、この個体から採集した変形ドングリの例を示しますが、どれも同じ様に堅果が局部的に膨らんでいます。中には、激しく膨らみ過ぎて果皮が裂けているものもあります。

 この堅果を縦に割って中身を見ると、果皮と種子の間だけでなく、種子と種子の間にまで種皮があることが判ります(図6-3-3参照)。種皮は種子を包む為のものですから、このドングリには通常1個しかないはずの種子が2個存在することになります。1個余分に種子が入っているせいで、堅果の中に種子を収納しきれなくなり、その歪みが堅果の局部的な膨れとして現れたのでしょう。

 みなさんはドングリの仲間の栗を食べた時に、殻と渋皮をきれいに取り除いたにも関わらず、口中に渋皮が残るような経験をされたことはありませんか。たぶん、その栗の中にもこのクヌギのドングリと同じように、2つの種子が入っていたのだと思います。

 2つの種子をもっているドングリには、他にもセクション3-1で紹介した多果(2果)があります。同じように2つの種子を持っているのに、ここで紹介したのとは見た目が全然違います。これらの違いはどこにあるのでしょうか。

 セクション3-1で説明したように、殻斗の元になる器官に2つの雌花が咲いてそれらが共に結実すると、2つの種子をもつ2果のドングリになります [ 図6-3-4(a)参照 ]。
 一方、殻斗の元になる器官に1つの雌花が咲いて、その中にある複数の胚珠の内の2つが同時に成長すると、1個の堅果に2つの種子が入ったドングリになります [ 図6-3-4(b)参照 ] 。これが、ここで紹介したドングリが誕生するメカニズムです。


 (付記)
 同園には、1個の堅果に2つの種子をもつ変形ドングリを大量に結実するクヌギが何体かあります。図6-3-5は、その内の1体から採集した変形ドングリです。図6-3-2のものよりやや小ぶりですが、結実量は比較にならないぐらい多いです。因みに、2009年にはこの個体の下に、足の踏み場も無いぐらい変形ドングリが落下していました。