1.  はじめに

 ドングリとはブナ科の植物の果実の総称です。ブナ科の果実は乾果の一種で堅果と呼ばれています。堅果は、堅い殻(果皮)で包まれており、その内側には種子となる子葉があります。また、堅果が成熟するまでの間は、堅果全体もしくはへその周辺部が殻斗によって覆われています(図1-1参照)。

 堅果は、殻斗の内部を通る維管束から水分や養分を吸収しながら成長します。成熟したドングリは、殻斗と堅果の間、及び殻斗と果軸
(*)の間にそれぞれ離層が形成されて地上に落ちてきます。
* マテバシイ属については、他の属種のように殻斗と果軸の間ではなく、果軸と枝の間に離層が形成されます。

 ブナ科の樹木は、世界中に7属(ブナ属、クリ属、シイ属、コナラ属、マテバシイ属、トゲガシ属、カクミガシ属)、900種類以上あると言われています。日本国内には、トゲガシ属とカクミガシ属を除く5属が分布しており、亜種、変種、雑種等を別にすると、22種類に分類されます(表1-1参照)。

(表1-1中用語の説明)
・ 常緑樹  1年を通じて緑の葉がついている樹木の種類。古い葉は、新しい葉が成長すると入れ替わりに落葉する。
・ 落葉樹  決まった季節に、一斉に葉を落とす樹木の種類。
・ 1年成   春に開花受粉して、その年の夏以降にドングリが成熟する樹木の種類。
・ 2年成   春に開花受粉して、翌年の夏以降にドングリが成熟する樹木の種類。
・ 風媒花  風を媒介して受粉する花の種類。
・ 虫媒花  昆虫を媒介して受粉する花の種類。虫を誘う為に、独特の形状や強い匂いを放つものが多い。
 ドングリについてもっと詳しく知りたい方は、このセクションの末尾にある【ドングリ関連図書】をご覧下さい。
 採集したドングリは、その形態からだけでは種類を特定しにくいものがあります。紛らわしいものについては、ドングリを落とした樹の特徴も含めて総合的に判断するしかありません。但し、同じ樹種でも樹齢や個体差によって、樹皮や葉っぱの特徴が大きく異なるので、慣れないうちは少し判りづらいかもしれません。

 私自身採集を始めた頃は、ドングリの樹種を特定するのに随分苦労した記憶があります。事前に、本で予備知識を得てから採集に出掛けるのですが、本に記載された内容を絶対視すればする程、識別が困難になるのです。たかがドングリ採集と言えども、こだわりをもって実践するには、仕事と同じでそれなりの場数を踏まなければなりません。

 このホームページは、ドングリについて本から得られる知識や一般論をまとめて紹介するものではありません。私個人のドングリ観をベースにして、様々な面からドングリのもつ知られざる魅力について紹介することを目的としています。
 具体的な内容については、後続のセクションで触れることにして、ここでは、私がどういう経緯でドングリに興味をもつようになったのか、簡単な自己紹介も含めてその心情を吐露したいと思います。

 私は、某電機メーカーに勤務する会社員です。大学時代の専攻が電子工学だったので、その延長で現在も電子部品の製造開発に従事しています。趣味は色々ありますが、特にここ何年間か興味をもち続けているのがドングリです。“何でそんなにドングリが好きなの?”とよく聞かれますが、“好きだから好きだ!”としか答えようがありません。強いて言えば、“ドングリの形態の多様性と美しさに魅せられてしまったからです”、とでも答えておきましょう。

 子供の頃は、ドングリ拾いや昆虫採集に明け暮れる毎日でしたが、年々緑が消えていく都会の環境の中で大人になっていくにつれて、いつしか動植物と触れ合う機会も少なくなり、私にとってドングリは、いつしか心の片隅に小さいころの思い出の一つとして刻まれる程度のものになっていました。そんな私にある転機が訪れたのは、現在の住いである兵庫県三田市への転居でした。

 三田市は自然が豊かなすばらしい街です。ただ、この環境が私にドングリへの興味を誘発した訳ではありません。私の勤務先は、同県内の伊丹市にあるのですが、転居したことによってこれまでと通勤ルートが変わり、三田市内から伊丹市内の最寄の駅(JR北伊丹駅)まで電車で行って、そこから伊丹市内の緑ヶ丘公園(図1-2参照)を通って、会社まで徒歩通勤することになりました。実はそのことが、思いがけず私の中に眠っていたドングリ熱を目覚めさせることになったのです。

 それは、8月末のまだ残暑が厳しい折でした。いつものように、緑ヶ丘公園の中を歩いていると、公園の入り口に近い大きな樹の下に、大量のドングリが散らばっているのが目に付きました。当時は、ドングリの種類も何も判りません。私の中では、せいぜい大きいドングリと小さいドングリ程度の区別しかありませんでした。

 “おやっ?!帽子(殻斗)付きのドングリだ!!”
 “しかも、結構実(堅果)が大きいぞ!!”
 “まだ8月だけど、ドングリってこんな時期に拾えたっけ?”
 “こんなでかいドングリは、ガキの頃には山に行かないと拾えなかったよな?!”
  
 その場に立ち尽くして色々な事に思いを巡らしていると、知らず知らずのうちにドングリに手が伸びて、通勤用のカバンにドングリを詰められるだけ詰めて家に持ち帰っていました。帰宅してから拾ってきたドングリを何度も手にするうちに、懐かしい気持ちといっしょに、“ドングリってこんなに瑞々しくて、きれいなものだったかな?!”という新鮮な気持ちが私の心の中から沸々と湧き上がって来るのを感じました。

 それから数日間は、毎日のようにその樹の下で大量に落ちてくるドングリを目にしながら一人感慨に耽っていたのですが、しばらくすると、今度は別の樹で全く違う形のドングリが落ちているのに気がつきました。その日を境に、園内では連鎖反応を起こしたかのように、次から次へと多数の樹から連日雨あられのようにドングリが落ちてきました。
 どれもこれも手にするドングリは色や形に特徴があり、しかもかわいくてキラキラと輝いていました。“一体全体、この公園には何種類のドングリがあるのだろう?”と疑問に思った私は、近所の書店でドングリの本を買ってきて、ドングリを落とす樹の樹皮や葉っぱ、そして果実の特徴について採集したものと照らし合わせてみました。ドングリの形状から、当初15種類以上はあると予想していたのですが、驚いたことに何とそれらはただ1種類のアベマキのドングリだったのです。

 その時の驚きが、私の内に眠っていた生来の丸いもの好き(実は丸くてコロコロした形状が好きなんです)を喚起し、以来ドングリに対する関心が愛情へと変化して、私の心はすっかりドングリの虜になってしまったのです。

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 ドングリは、1つの種類を取り上げても樹木によって色や形が全く異なり、そのバリエーションは想像もつかないほど多様です。ただ残念なことに、ドングリは樹から落下して、早いものでは1週間、遅いものでも半月もすれば堅果の表面が色褪せてしまい、どれもこれも似たような、硬くて干からびた単なる木の実になってしまいます。
 ところが、成熟して樹上から今にも落ちてきそうなドングリや、落ちて間もないドングリは水分を一杯に含んでいて張りがあり、少し表面を擦ってみると多彩色でキラキラと色艶良く輝いて、まるで宝石と見紛うかのようなんです。

 ここまで私が絶賛すると、“それはアバタもエクボだよ!”と笑われてしまいそうですが、そうおっしゃる方も1度シーズン中にドングリを手に取ってじっくりとご覧になってみて下さい。きっと、今までとは少し違った印象をもたれることと確信しております。

ドングリ関連図書 
1. どんぐりの図鑑  北川尚史 伊藤ふくお著  トンボ出版 (2001)
  (概要)  日本で採集出来るドングリについて、樹木、葉、果実の写真をもとに紹介されてます。ドングリに関する説明はあまり充実していませんが、国内で初めて子供の世界から大人の世界にドングリを昇格させた画期的な本です。

2. ドングリと松ぼっくり  平野隆久 片桐啓子著  山と渓谷社 (2001)
  (概要)  日本で採集できる主なドングリを美しい写真でビジュアルに紹介されてます。

3. ドングリ観察事典  小田英男 久保秀一著  偕成社 (1998)
  (概要)  日本で採集できるドングリの簡単な説明と、コナラの春夏秋冬を美しい写真で紹介されてます。

4. 科学のアルバム ドングリ 埴沙萠著 あかね書房 (1990)
  (概要)  日本で採集できるドングリの簡単な説明と、クヌギの春夏秋冬を美しい写真で紹介されてます。

5. ドングリの謎  盛口満著 どうぶつ社 (2001)
  (概要)  著者のドングリ体験について書かれた面白い読本です。

6. どんぐりノート  いわさゆうこ 大滝玲子著  文化出版局 (1995)
  (概要)  子供向けのドングリの絵本です。私の娘のバイブルでした。

7. 雑木林に出かけよう  八田洋章著 朝日新聞社 (2002)
  (概要)  ブナ科の樹木、果実全般について詳解されてます。ドングリの一般論について学習するのに役立ちます。                                                      

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