雑記599. 2025.12. 2
“ へそが無い小さな堅果 ”
マテバシイのドングリで、複数の堅果が合着したものを目にすることは稀です。でも、同じマテバシイ属のシリブカガシなら、ちょうど今の時期、2個乃至3個の堅果が合着したものをよく見かけます。両者の違いが生じる理由は定かではありませんが、私は雌花序に咲く雌花の平均的な数が、マテバシイ(n=1〜3)に比べて、シリブカガシ(n=1〜5)の方が多いことが関係しているのではないかと推測しています(*)。
* 雑記374を参照願います。
一般に、マテバシイ属のドングリは複数の雌花序(1つの殻斗の元になる器官に咲いた1つの雌花)が合着して形成されたものだと考えられていますが、私はその解釈に疑念を抱いております。
なぜなら、私がこれまで観察してきたデータ(**)をみる限り、雌花序同士が合着しても、それぞれの雌花序から出現した殻斗が合着することは稀だからです。例外的に殻斗が合着するのは、それぞれの雌花序に咲いた雌花同士が直接合着するか、あるいは合着しないまでもそれに準ずる形で近接している場合に限られるからです。
もし仮に一般的な解釈が正しいとすれば、マテバシイやシリブカガシの樹上は、複数の堅果が合着したドングリで埋め尽くされているはずですが、誰もそのような光景を目にしたことはないでしょう。
** セクション32に取得したデータの一部を紹介しています。このセクションを掲載した当時から、既に相当数の類似形態について観察してきましたが、未だに私の解釈を否定するようなデータは得られておりません。

さて、コナラ属の多果ドングリと同様に、マテバシイ属でも複数の堅果が合着したドングリには様々な形態があります(図8-599-2参照)。それらの中でも極めつけの変わり種を、先日長居植物園 [ 所在地 : 大阪府大阪市 ] にあるシリブカガシの林で見つけました。それは、シリブカガシの堅果の首回りに、もう一つの小さな堅果が貼りついた2果のドングリです(図8-599-3参照)。
雑記584の中で、コナラの堅果の首回りに貼り付いた小さな紐のような堅果を紹介しましたが、今回見つけたものは同じ小さな堅果でも立体的で、より堅果らしい代物です。1つの殻斗の元になる器官に咲いた合着した2つの雌花のうち、一方の雌花の成長が途中で停止したことによって、このドングリは誕生したと考えられます。
ただ、この小さな堅果には、へそと呼べるようなものが見当たりません(図8-599-4参照)。たぶん、成長が停止した時点で、この堅果に養分を供給してきた維管束のパスが遮断されてしまったからでしょう。これまで様々な種類の多果を検分してきましたが、こんなドングリを見たのはこれが初めてです☆