20-5. マテバシイ シリブカガシ

 
 国産のマテバシイ属には、マテバシイとシリブカガシの2種類があります。図20-5-1はそれらの典型的な堅果で、マテバシイは砲弾形、シリブカガシは胴回りが膨らんだ楕円形です。また、シリブカガシの堅果の表面にはガラス状の光沢があります。典型的なドングリにおけるこれらの違いを見ていると、マテバシイとシリブカガシは堅果の外観だけで容易に識別できるように思われます。

 しかしながら、マテバシイの堅果は個体差が大きく、シリブカガシのように楕円形のものや、ガラス状の光沢があるもの(図20-5-2参照)が少なからず存在します。
 このように、マテバシイとシリブカガシは堅果の形や質感では識別が困難な場合もあるので、識別の精度を高めるには、これら以外のポイントにも着目しなければなりません。ここでは、堅果の形状や質感以外で両者を識別するのに、へその形態に着目した方法を提案します。

 マテバシイとシリブカガシの堅果の形態について統計的なデータを得るために、66体のマテバシイと56体のシリブカガシから各々1個ずつ採集したドングリを検体として使用しました。また、形態の偏りを排除するために、両者とも京阪神地区にある公園や緑地等から出来る限り様々な大きさや形ものを集めました。

 ここでは、堅果の形状を具体的な数値で表現するために、各部位を図20-5-3のように分割して記号化しました。マテバシイやシリブカガシの堅果は歪に変形しているものが多いので、堅果の胴回りで直径が最大になる部分の値を堅果幅(=W1)、その直径と同じ方向のへその長さをへそ幅(=W2 : 実際に窪んでいる部分の内径)、そしてへその最も窪みが深いところをへそ深さ(=H)と定義しました。因みに、これらの計測には、0.1mm単位まで測定可能な精密ノギスを使用しました。


 へその形態を簡単に計測できる数値で表現すると、へそ深さ(=H)とへそ幅(=W2)になります。図20-5-4は、H値について両者の個数分布を比較したものです。Hの平均値はマテバシイが0.60mm、シリブカガシが0.83mmであり、シリブカガシの方がマテバシイよりもへそが深く窪む傾向があります。ただ、その差はごく僅かであり、H値の広い範囲に両者が混在しているので、へそ深さは識別ポイントには成り得ません。

 一方、図20-5-5はW2値について両者の個数分布を比較したものです。W2の平均値はマテバシイが8.71mm、シリブカガシが4.27mmであり、マテバシイの方がシリブカガシよりもへそ幅がかなり大きい傾向があります。さらに、W2値については両者が混在している範囲が狭く、6mm未満ではシリブカガシが90%以上を占めているので、へそ幅は識別ポイントに成り得ます。

 さらに、へそ幅が6mm未満のマテバシイの検体は、どれも堅果のサイズが極端に小さなものばかりなので、堅果のサイズによる影響を排除するために、へそ幅(=W2)を各々の検体の堅果幅(=W1)で規格化した数値(=W2/W1)に変換します。すると、両者の分布は完全に分離し、W2/W1=0.4を閾値とすることで100%の識別が可能になります(図20-5-6参照)。

 以上の結果から、マテバシイとシリブカガシの堅果を見分ける場合、へそ幅といっしょにへそ幅を堅果幅で割った値も合わせて考慮することをお勧めします。

(識別上の注意事項)

・ マテバシイとシリブカガシの識別点となるW2/W1=0.4は絶対的なものではありません。あくまで、このセクションで取り上げた検体から割り出した値であり、より多くの個体を対象とすれば、微妙に前後する可能性があります。