20-3. コナラ ナラガシワ

 
 ツブラジイの堅果は、スダジイをそっくりそのまま小さくしたような形をしています。両者は見た目の大きさが異なる場合が多いので、堅果長が識別のポイントになることは確かです。ただ、ツブラジイの堅果の中には、小型のスダジイと同じぐらいの大きさのものもあるので、各々の平均的なサイズよりも明らかに大きいか、あるいは小さなものしか堅果長では識別できません
(*)。ここでは、堅果長以外で両者を識別するのに、へその大きさに着目した方法を提案します。
* 両者の識別を難しくしている理由の一つに、スダジイとツブラジイの交雑種の存在が挙げられます。

 スダジイとツブラジイの堅果の特徴について統計的なデータを得るために、各々60体から1個ずつ採集したドングリを検体として使用しました。また、形態の偏りを排除するために、両者とも京阪神地区にある公園や緑地から出来る限り様々な大きさや形ものを集めました。
 ここでは、堅果の形状を具体的な数値を使って表現するために、各部位を図20-4-2のように分割して記号化しました。各々の記号の意味は、同図の右側に記載した通りです。因みに、計測には0.1mm単位まで測定可能な精密ノギスを使用しました。


 検体の大きさの目安となる堅果長(=H)と堅果幅(=W1)は、それぞれ図20-4-3、図20-4-4の通りです。横軸はH、W1の寸法の計測値、縦軸は各々の寸法に対する個数を表しています。
 一般に、スダジイのドングリはツブラジイのドングリを一回り大きくした形であると言われてますが、図20-3-3を見ると確かにスダジイのドングリの平均的なサイズはツブラジイの1.5倍以上あります(ツブラジイの平均長〜11.7mm、スダジイの平均長〜18.9mm)。また、両者の分布には明確な差があり、堅果長が16mm以上だとスダジイ、14mm未満だとツブラジイが多数を占めます。ですから、これらの堅果長を閾値とすれば、70%程度の確率で両者を識別できます。

 参考までに、堅果幅に対する個数分布を図20-4-4にまとめますが、両者の分布にほとんど差が見られないことから、堅果幅が識別のポイントにならないことは明らかです。


 次に、冒頭で述べたへその大きさについて検証します。ここでは、へその大きさをその直径(へそ幅 : W2)で表わしています。堅果はへその側から見ると円形のものばかりではありませんので、へそが楕円形の堅果については、楕円形の長軸をへそ幅と定義します。

 図20-4-5は、W2値について両者の個数分布を比較したものです。これを見ると、ツブラジイの方がスダジイよりもへそ幅が小さい傾向があるのが判ります。但し、両者の分布が交わる範囲(5mm≦W2<8mm)が広いので、単純にへそ幅だけで識別しようとすると、堅果長で識別するよりもかえって確度が低下してしまいます。

 そこで、へそ幅(=W2)を各々の検体の堅果幅(=W1)で割って規格化(=W2/W1)してみました。すると、両者の分布が交わる範囲(0.65mm≦W2<0.75mm)が極端に狭くなり、W2/W1=0.7を両者の閾値とすることで、90%以上の高確率で両者の識別が可能になります(図20-4-6参照)。

 以上の結果から、スダジイとツブラジイの堅果を見分ける場合、堅果長といっしょにへそ幅を堅果幅で割った値も合わせて考慮することをお勧めします。 

(識別上の注意事項)

・ スダジイとツブラジイの識別点となるW2/W1=0.7は絶対的なものではありません。あくまで、このセクションで取り上げた検体から割り出した値であり、より多くの個体を対象とすれば、微妙に前後する可能性があります。