20-3. コナラ ナラガシワ

 
 コナラのドングリは、同じコナラ亜属のナラガシワのドングリと形態がよく似ています。一見すると両者の識別は難しそうですが、実はへその大きさに着目すると、かなり高い確度で両者を識別することができます。

 コナラとナラガシワの堅果の特徴について統計的なデータを得る為に、133体のコナラと106体のナラガシワから1個ずつ採集したドングリを検体として使用しました。また、形態の偏りを排除する為に、両者とも京阪神地区にある公園や緑地から出来る限り様々な大きさや形ものを集めました。
 ここでは、堅果の形状を具体的な数値を使って表現するために、各部位を図20-3-2のように分割して記号化しました。各々の記号の意味は、同図の右側に記載した通りです。因みに、計測には0.1mm単位まで測定可能な精密ノギスを使用しました。


 検体の大きさの目安となる堅果長(=H)と堅果幅(=W1)は各々図20-3-3、図20-3-4にある通りです。横軸はH、W1の寸法の計測値、縦軸は各々の寸法に対する検体数を表しています。

 一般に、ナラガシワのドングリはコナラのドングリを一回り大きくした大きさと言われてますが、図20-3-3を見る限り、ナラガシワの堅果長はコナラよりも若干大きい程度です(コナラの平均長〜23.4mm、ナラガシワの平均長〜26.9mm)。しかも、両者の分布に明確な差が見られないことから、堅果長でこれらを識別するのは難しいと考えられます。但し、堅果長が40mm以上のものはナラガシワでしか見られないので、この特徴を有するものについては堅果長だけで識別が可能です。

 一方、堅果幅についてもナラガシワの方がコナラよりも若干大きい程度です (図20-3-4参照 : コナラの平均幅〜12.9mm、ナラガシワの平均幅〜15.7mm)。しかも、両者の分布に明確な差が見られないことから、堅果幅でこれらを識別するのは難しいと考えられます。但し、堅果幅が20mm前後のものはナラガシワ、10mm未満のものはコナラでしか見られないので、これらの特徴を有するものについては堅果幅だけで識別が可能です。


 次に、冒頭で述べたへその大きさについて検証します。ここでは、へその大きさをその直径(へそ幅 : W2)で表わしています。堅果はへその側から見ると円形のものばかりではありませんので、へそが楕円形の堅果については、楕円形の長軸をへそ幅と定義します。

 
図20-3-5は、W2値について両者の個数分布を比較したものです。これを見ると、コナラの方がナラガシワよりも明らかにへそ幅が小さい傾向があります。そして、W2=7.5mmを閾値とすることで、90%近い確率で両者の識別が可能になります。

 さらに、堅果の大きさによる影響を排除するために、へそ幅(=W2)を各々の検体の堅果幅(=W1)で割って規格化(=W2/W1)してみました(図20-3-6参照)。すると、へそ幅を堅果幅で規格化した値の方が、両者の分布の境界線がより明確になり、W2/W1=0.55を閾値とすることで、95%以上の高確率で両者の識別が可能になります。


(補足)
 コナラのドングリは、ミズナラのドングリとも良く似ています。図20-3-7は、21体のミズナラから採集したドングリのW2/W1値を図20-3-6に追加したものですが、ナラガシワと同様にコナラよりもへそ幅が大きい傾向がありそうです。
 ミズナラについては、京阪神で採集できる検体数が少ないので、現段階ではっきりとしたことは言えませんが、今後検体数が増すことで、コナラとナラガシワの関係の様に両者の識別ポイントになるW2/W1値が見つかるかもしれません。

(識別上の注意事項)

・ コナラとナラガシワの識別点となるW2/W1=0.55は絶対的なものではありません。あくまで、このセクションで取り上げた検体から割り出した値であり、より多くの個体を対象とすれば、微妙に前後する可能性があります。