アカガシ亜属のドングリの中で、アラカシとシラカシ、そしてウラジロガシの3種類は堅果の形が非常に良く似ており、外観だけでこれらを識別するのは難しいように思われるかもしれません。ただ、これらの堅果にはそれぞれの首回りの構造に特徴があるので、それらを把握しておけば100%識別が可能です。
まずは、アラカシの首回りの構造について見てみます。図20-1-2に典型的な形態例を示します。いずれも、首から肩にかけての果皮に薄い輪状の文様(圧迫痕)があります。アラカシの堅果は、(a)や(b)のように首から肩にかけてなだらかなカーブを描くものがほとんどですが、中には(c)や(d)のように輪状の文様の部分が肩から突出して、首の部分がまるで堅果から独立した構造物のように見えるものもあります。以下、便宜上この突出部分を多重輪状突起物と称することにします。
次に、シラカシの首回りの構造について見てみます。図20-1-3に典型的な形態例を示します。一般に、シラカシの堅果の首から肩の辺りには、白くて細かい毛が生えています。この毛はアラカシには見られない(*)ので、毛の有無が両者を識別する一つの要素になります。但し、全てのシラカシに毛があるという訳ではありませんので、これだけでは識別要素としては不十分です。
* 肉眼では確認しづらいですが、ミクロスケールで見るとアラカシの首回りにも僅かに毛があります。
他の識別要素として、多重輪状突起物の形態が挙げられます。アラカシでは特定の個体でしか見られませんが、シラカシでは全ての個体にこの構造物が共通して見られます。これは両者に見られる特徴なので、明確な識別要素には成り得ないように思われますが、アラカシとシラカシではこの部分の外観に決定的な違いがあります。
それは、アラカシにはこの突起物の表面に果皮と同様の光沢が有るのに対して、シラカシにはそれが無いという点です。シラカシはこの部分に微細な毛が生えていたり、毛がなくてもリングの間隔が非常に狭く密であることから、くすんだ様に見えます。また、首回りの果皮に微かな窪みがあり、首と肩の境界が明確なところもアラカシやウラジロガシには見られない大きな特徴です。
最後に、ウラジロガシの首回りの構造について見てみます。図20-1-4にに典型的な形態例を示します。ウラジロガシの首回りの構造はシラカシのそれによく似ていますが、両者には一つだけ大きく異なる点があります。それは、ウラジロガシの花柱はシラカシのものに比べて1本1本が極めて繊細であることです。また、果皮から露出している花柱は各々が分離して、外向きに反り返っています。
花柱の繊細さを具体的な数値で表現することは出来ませんが、両者の典型的な花柱を見れば、このような感覚的な表現でも十分に識別要素に成り得ることが判ると思います。
最後に、3種類の堅果の識別方法をフローチャートにまとめます(図20-1-5参照)。
(追記)
アラカシ、シラカシ、ウラジロガシの堅果の識別方法の詳細と具体例については、セクション29の3〜5項を参照願います。