13-3. 果実の成長の推移

 セクション13-2では、開花から結実までの形態の変化をビジュアルに紹介しました。ここでは、果実の成長過程を具体的な数値で表現します。果実のスケールを表すのに、横幅を殻斗の直径、高さを殻斗の付根から花柱の先端までの長さと定義し、樹上にあるものを毎回ノギスで計測しました(図13-3-1参照)。測定結果を表13-3-1〜表13-3-3にまとめます(*)
* 1つの果実だけだと、成長過程で不慮の事故が生じた場合、そこでデータが途切れてしまうので、実際には4つの個体の特定の果実を同時に計測しました。幸い4つとも無事に結実し、個体によって若干数値は異なるものの、全て同じ傾向を示していました。ここでは、その中の代表的なものを1つピックアップしてグラフ化しています。


 表13-3-1は、果実の寸法の推移です。横軸は測定日で、縦軸はその時の横幅 [ =W(T)] 、と高さ [ =H(T) ] を示しています。横幅と高さを表す記号に(T)が付いていますが、これは両者が時間(日数)と共に変化する関数であることを表しています。
 この表から、果実が成熟するおよそ2ヶ月前に、横幅方向の伸長がほぼ停止し、以後半月間に渡って高さ方向にのみ急激に伸長しているのが判ります。

 表13-3-2は、表13-3-1の横幅と高さの数値から、縦軸を両者の比(=H/W)に変換したものです。H/Wの値が1.0に近い程、高さと横幅の寸法が同じであることを表しています。
 この表から、果実が成熟する約2ヶ月前までは、横幅と高さがほぼ同じ割合で成長していることが判ります。これは、この期間果実が縦横方向に等速伸長していることを表しています(**)
** 表13-3-3からも、果実が等方的に等速度で成長していることが判ります。

 表13-3-3は、表13-3-1の高さと横幅の数値を計測期間内の日数で微分して、各期間毎の成長速度を算出したものです。横軸は日付で、縦軸は高さ方向の成長速度 [ =dH(T)/dT ] と横幅方向の成長速度 [ =dW(T)/dT ] を表しています。
 この表から、果実が最も伸長するのは、果実が成熟する2ヶ月〜1ヶ月前にかけての約1ヶ月間であることが判ります。11月以後に成長速度が負の値を示しているのは、果実が茶色く変色する(成熟する)につれて、若干サイズが縮小することを意味しています。

 文献によると、“ 果実は横方向に拡張してから縦方向に成長する ” と記載されており、あたかも成長の初期段階で横方向のみに選択成長しているかのような印象を受けますが、実際のところは、“ 縦横に等方的に成長して、横方向の伸長が停止した後も高さ方向に成長し続ける ” と言った感じだと思います。果実の成長を他の事柄に例えるならば、子供の頃によく遊んだ細長い風船に空気を入れた時に膨らんでいく様子が正にそれです。

 また、“ ドングリが最も大きく成長するのは夏季期間である ” というふうに記載された文献がありますが、これが正しくないことは上表を見れば明らかです。夏季期間に成長が著しいドングリは、クヌギやコナラ等の10月頃に結実するもの(成熟する2ヶ月前は夏真っ盛りの8月です)であって、11月以降に成熟するものは9月〜10月頃に成長のピークを迎えます。