11-3. コナラ属に見る殻斗の鱗片構造

 ドングリの帽子のことを殻斗と呼びます。殻斗の中でも、一番帽子のイメージに近いのはコナラ属のものでしょう。殻斗の形態はドングリの種類によって様々ですが、これらの違いは殻斗の表面を覆っている鱗片の構造の違いによるものと思われます。
 このセクションでは、コナラ属の中でも特徴的な鱗片構造をもつアベマキ、カシワ、コナラ、ウバメガシを例に挙げて、それらのディティールを紹介します。
・ 同じ種類でも形態には個体差があります。ですから、ここで例に挙げているものと他の個体から採集したものとでは、微妙に異なる点があることを留意願います。
・ このセクションでは、コナラ属の中でも形態に特徴があるコナラ亜属の殻斗を取り上げています。アカガシ亜属の殻斗については、セクション10に代表例としてシラカシを掲載していますので、そちらをご覧下さい。
・ ある部分を顕微鏡で拡大する場合、その部分を囲んだ枠の色と同色の枠で拡大した写真で表示しています。

アベマキ( Quercus variabilis )


図11-3-1. アベマキの殻斗の鱗片構造

 太くて長く、なおかつ堅い鱗片です。表面は全体的に太さ10ミクロン前後の細かい毛で覆われていますが、部位によって毛の濃淡が異なります [ 図(c)参照 ] 。切断面は基本的に三角形 [ 図中(d1)参照] もしくは四角形 [ 図中(d2)参照] ですが、個体によっては凹凸が激しく、複雑な形をしたものもあります [ 図中(d3)参照] 。


カシワ( Quercus dentata )

図11-3-2. カシワの殻斗の鱗片構造

 
 薄くて長く、なおかつ柔らかい鱗片
(*)です。上面は太さが10ミクロンぐらいの細くて長い毛で覆われていますが、背面には全く毛がありません。また、肉眼では平べったく見えますが、その切断面を電子顕微鏡で拡大すると、上面の中央付近を頂点とする三角形であることが判ります。
* セクション2で紹介したような、鱗片が極端に短い殻斗もあります。

コナラ( Quercus serrata )


図11-3-3. コナラの殻斗の鱗片構造

 小さな三角形、もしくは台形状のものが殻斗の表面に密着しています。上面は太さが5ミクロンぐらいの細くて短い毛にびっしりと覆われていますが、背面には他の種類と同様に毛がありません。


ウバメガシ( Quercus phillyraeoides )


図11-3-4. ウバメガシの殻斗の鱗片構造

 小さな三角形で、先端部分に0.5mm角ぐらいの赤黒い物体が付着しています。これはウバメガシの殻斗の鱗片に特有のもので、他の種類には見られません。この赤黒い物体には、両面共に毛がありませんが、これ以外の部分は太さ5ミクロンぐらいの短くて縮れた毛に覆われています。