9-2-1. 殻斗に寄生するタマバエの仲間

◎ ドングリの種類
 このタマバエの幼虫は、正確には殻斗ではなく殻斗と堅果の接続部分に寄生します。これまでに、この部位に寄生するタマバエの幼虫を確認したのはマテバシイ、オキナワウラジロガシ、ツクバネガシの3種類です。これら3種類のドングリの中で、マテバシイに寄生する一種類のものについては羽化させることに成功しましたが、外観から別の種類と思われる複数の幼虫については成虫の姿を確認できておりません。

◎ 寄生の形態
 この部位に寄生するタマバエの幼虫は虫瘤を形成しません。樹上にドングリが結実する前から殻斗と堅果の接続部分に寄生して、そこから堅果の成長に必要な水分や養分の一部を摂取しながら成長すると考えられます。ですから、この幼虫が寄生しても、種子の成長が阻害されることはありません。

 図9-2-1-1は、マテバシイの樹上から採取した完熟前のドングリから殻斗を取り外した時に現れたタマバチの幼虫です。完熟前というのは、殻斗と堅果が完全に分離していない状態で、殻斗から堅果を取り外すのにかなりの力を要します。このドングリの中には、体長が2mm前後の幼虫が全部で6匹いました。堅果を取り外した直後は、全ての幼虫の半身がへその中に埋没していました。

 一方、図9-2-1-2は、マテバシイの樹下に落ちていたドングリから殻斗を取り外した時に現れたタマバチの幼虫です。このドングリの中には、18匹もの幼虫がいました。マテバシイのドングリに寄生したタマバエの幼虫は、ほとんどが樹上に結実したドングリの中から見つかっており、落下したものから現れたのはこれだけです。このドングリは、殻斗と堅果が強固に癒着しており、ドングリが完熟前の状態よりも両者を分離するのにかなりの力を要しました。

 マテバシイの樹上に結実したドングリでも、成熟して殻斗から堅果が容易に分離できるものには幼虫はおらず、前記のように殻斗と堅果が多少癒着して分離しにくいドングリの中にも稀に潜伏していました。
 一連の状況から推測すると、この幼虫はドングリが成熟して殻斗の内側に離層(殻斗と堅果の分離層)が形成される頃になると、殻斗と堅果の隙間から外部に脱出するものと考えられます。樹上や樹下で殻斗と堅果がくっついたままのドングリに潜伏していた幼虫は、たぶん殻斗と堅果が癒着していたせいで、脱出できなかったのでしょう。


◎ 蛹

 図9-2-1-4は、マテバシイのドングリから現れた幼虫が蛹化した姿を撮影したものです。タマバエの専門家に確認していただいたところ、“ 蛹の頭部に顕著な突起が見られないのは、虫瘤内で蛹化するタマバエとは明らかに異なり、虫瘤から脱出して地中で蛹化するタマバエの蛹に似ている ” との事でした。

◎ 成虫

 これまでに、タマバエの羽化に成功したのはマテバシイに寄生した1種類のみですが、いずれも9月中にドングリから現れた幼虫で、10月以降に現れたものは羽化しませんでした。
 図9-2-1-6は、マテバシイのドングリから現れた幼虫が10日前後で羽化した姿を撮影したものです。タマバエの専門家に確認していただいたところ、これまでに見たことがない珍しい種類との事でした。


◎ 産卵
 いつごろ、どのようにしてドングリに寄生するのか、まだ何も解っていません。

(補記1)

 マテバシイのドングリには、上述で紹介した種類の他にも寄生するタマバエの幼虫がいます(図9-2-1-7参照)。寄生部位は前述のタマバエと同じで体長は2mm程度です。詳しい生態については不明です。

(補記2)
 図9-2-1-8は、オキナワウラジロガシの殻斗と堅果が一体化したドングリから見つかったタマバエの幼虫です。マテバシイに寄生していたものとよく似ていますが、やや寸胴な感じがします。中には、1つのドングリに100匹以上が寄生していたものも見つかりましたが、種子の成長を阻害した様子は認められませんでした。