9. ドングリに潜む奇妙な虫

 数年前に、マテバシイの樹上から採取したドングリの殻斗と堅果を分離すると、殻斗の内側と堅果のへその部分に、体長2mm程度のオレンジ色の幼虫が複数匹いました(図9-5-1参照)。その中の何匹かは、堅果のへその中に半身が埋もれていました。

 それ以来、樹上や樹下から採集したマテバシイのドングリで度々同じ幼虫を目にしました(図9-5-3参照)。幼虫の数はドングリによって異なり、少ないものだと5匹前後、多いものになると20匹ぐらいいました。いずれのドングリも、殻斗と堅果が繋がっていた部分(殻斗の離層の痕跡と堅果のへそに該当する部分)に幼虫が潜伏していたことから、堅果の成長に必要な養分が殻斗から供給されるこの部分に寄生して、幼虫が成長するのに必要な養分を摂取していたのではないかと考えられます。

 そのように考えた理由は、幼虫が寄生していた堅果で種子が通常よりも小さめのものやほとんど成長していないものが見られたからです(図9-5-4参照)。ただ、種子のサイズは寄生する幼虫の数やそれらが摂取する養分の量に依存している可能性があることや、マテバシイのドングリには本質的にシイナ(*)が多く含まれること等から、今後より多くの検体を対象にして調査する必要があると考えられます。
* 種子がほとんど成長せずに、果皮だけが果実の成熟体と同程度のサイズになったものをシイナと呼びます。


 初めてこの幼虫を目撃した時から、幼虫を羽化させる試みを続けてきました。色々トライした結果、プラスチックの容器の下にスポンジシート(幼虫が潜伏できるスペースが目的)と濡れたティッシュ(適度な湿度が目的)を置いてやったところ(図9-5-5参照)、一週間程度で羽化させることに成功しました。

 羽化した成虫の姿(図9-5-6、図9-5-7参照)から、この幼虫の正体がタマバエ科 [ Cecidomyiidae ] の仲間であることが判りましたが、タマバエについて専門的に研究されている方でも、これまでご覧になられたことが無い珍しい種類だそうです。九州大学の湯川先生のご厚意で、引き続き種類の同定に尽力して頂けることになりましたので、あらためて必要な検体の採集に今秋チャレンジするつもりです。


 マテバシイのドングリに寄生していた幼虫の羽化に成功してから程なくして、この幼虫が他の種類のドングリにも寄生しているのを見つけました。

 一つはオキナワウラジロガシのドングリです(図9-5-8参照)。マテバシイで見たものと同じ種類かどうかは判りませんが、素人目には識別できないぐらい酷似しており、寄生部位もマテバシイと全く同じ箇所でした。

 このドングリは、沖縄県の久米島でオキナワウラジロガシが林立する樹下の枯葉の上で見つけました。殻斗と堅果を分離すると、中に11匹の幼虫が潜伏していました。また、このドングリの周囲に散乱しているオキナワウラジロガシの殻斗の裾の部分に、この幼虫が何かで圧し潰されたような状態で付着しているのを見つけました。この状況から、幼虫は寄生したドングリから養分が摂取できなくなる(ドングリが成熟して、殻斗と堅果の間に離層が形成された状態)と、殻斗と堅果の隙間から脱出して、他の場所で羽化しているのではないかと考えられます。殻斗の裾に付着していた幼虫は、たぶん何らかの原因で脱出に失敗したのでしょう。
 因みに、このドングリから出現した幼虫も図9-5-5と同じ容器に入れてみましたが、残念ながら羽化せずに全て死滅してしまいました。

 もう一つはツクバネガシのドングリです(図9-5-9参照)。こちらも、マテバシイで見たものと同じ種類かどうかは判りませんが、素人目には識別できないぐらい酷似していました。
 こちらは落下してから一月半ぐらいが経過したドングリで、殻斗と堅果を分離すると、3匹の幼虫が殻斗の内壁の微毛に埋もれたような状態で見つかりました。動きが緩慢で大分衰弱していたことから、殻斗と堅果の隙間から脱出するのに失敗して殻斗の内側に残留していたのではないかと思われます。殻斗から取り出して図9-5-5と同じ容器に入れましたが、既にスポンジシートの中に潜り込む力はなく、間もなく全て死滅しました。

 現在のところこの幼虫を目撃したのは、マテバシイ、オキナワウラジロガシ、ツクバネガシの3種類のみですが、おそらく他の種類のドングリにも寄生している可能性が高いと思われます。