雑記089. 2012. 9.10
“ 多果であることの間接的な証拠 ”
 私は、殻斗から飛び出した小さな突起物のような紐状殻斗は、殻斗本体が包含する堅果以外にもう1つ存在したはずの堅果を包含するために形成されたものです。元をたどれば、殻斗の元になる器官に咲いた2つの雌花の内の1つが退化消滅し、その消滅した雌花の情報に基づいて形成されたのが紐状殻斗ですから、紐状殻斗があるドングリは紛れもなく多果の仲間なのです(*)。今回は、この紐状殻斗が消滅した雌花(幼堅果)を包含するために形成されたものであるという証拠をお見せします。
 * セクション3-1-3を参照願います。

 紐状殻斗というのは、図8-89-1に見られる小さな突起物のことで、殻斗の側面に貼り付いたもの [ 図8-89-2(a)] や象の鼻のように長くて反り返ったもの [ 図8-89-2(c)] 等、形態は様々です。ただ、共通しているのはどれも堅果を包含していないということです。ですから、紐状殻斗の外観だけで、これらが堅果を包含するために形成されたものであることを証明するのはとても難しいのです。
 そこで、殻斗と堅果が太い維管束で繋がれている点に着目し、紐状殻斗の内部にも太い維管束が通っていれば、この部分が堅果を包含するために形成されたものであることの間接的な証拠になると考えられます。

 乾燥した紐状殻斗の切断面を見ても、維管束と殻斗の内部組織の区別がはっきりしないことから、紐状殻斗がある比較的若い幼果(図8-89-3上段参照)を採集してきてその切断面を観察してみました。

 その結果、果軸から殻斗本体を通じて幼堅果のへそに該当するところまで太い維管束が通じており、さらにその一部が紐状殻斗の方に分岐している様子がはっきりと確認出来ました(図8-89-3下段参照)。因みに、殻斗の内部には栄養分を供給する為の維管束が張り巡らされているのですが、それらは紐状殻斗を貫通しているものとは比べ物にならないぐらい微細です。ですから、紐状殻斗に対して分岐された維管束は、単にその周辺の殻斗の成長に必要な養分のパスを目的として形成されたものではないと考えられます。

 今回は、紐状殻斗を貫く太い維管束の存在を明らかにすることで、これが本来堅果を包含するために形成されたものであることを間接的に証明しました。紐状殻斗の先端に小さくてもいいから堅果を包含した幼果が見つかれば、直接的な証拠になるのですが、そういうものにはなかなか巡り会えません。諦めずに、これからも探索を続けていくつもりです。