雑記088. 2012. 9. 3
“ 時間が経つと、どれぐらい変わるのか? ”
 毎年採集してきたドングリの中からサンプルとして取り置く分については、およそ1年かけて十分に乾燥させた後、採集した個体毎に分別してアクリル樹脂製の容器に保存します。容器の中のドングリは、樹から落下したばかりの頃の形態的な特徴をある程度は保持しているものの、如何せん退色して艶がなくなり、幾分縮んでしまっているのが玉に瑕です。

 ドングリは時間が経つと水分が蒸発するので、少し縮んで軽くなりますが、実際にどの程度変化するものなのか以前から気になって仕方がありませんでした。そこで、昨年の秋に採集したドングリを乾燥させる過程で、持った時の手応えを表す重量と、見た目の大きさを表す体積についてそれらの変化量を追跡調査してみることにしました。

 検体として、アベマキとマテバシイのドングリを各々50個ずつ準備しました。ドングリは同じ種類でも様々なサイズのものがあるので、偏りが生じないようになるべく多様な形態を選出しました。


 実験の手順を以下にまとめます。

1. 採集してきたドングリの中から、果皮の表面の退色や虫による食害の痕跡が無く、かつ水に浸漬して沈むものだけを選出する
[ 2011. 9.25実施 ]

2. 各々のドングリの果皮の表面に、マジックで1〜50までの番号を記入する [ 2011. 9.25実施 ] 。

3. 個体毎の重量と50個をまとめたものの総重量を秤で測定する。その後、計量カップに水を満たし、その中に種類別に50個のドングリを浸漬して、浸漬前後の水の体積の差から50個のドングリの総体積を算出する [ 2011. 9.25実施 ] 。

4. 測定した後、常温の水にドングリを入れて加熱する(*)。水が沸騰してから30秒後に取り出して、種類別に台所用の水切ネットに入れて、直射日光の当たらない軒先に吊るして乾燥させる [ 2011. 9.25実施 ] 。

5. 数ヶ月おきに種類別の総重量のみを測定する [ 2011. 9.25〜2012. 8.30実施 ] 。

6. ドングリが十分に乾燥(総重量が時間に対して飽和傾向を示す)したら、個体毎の重量と50個をまとめたものの総重量を秤で測定する。その後、計量カップに水を満たし、その中に種類別に50個のドングリを浸漬して、浸漬前後の水の体積の差から50個のドングリの総体積を算出する
(**) [ 2012. 8.30実施 ]
   *  種子が生きていると乾燥が進まないので、煮沸して種子を殺します。
 ** 乾燥したドングリは水に沈まないので、水面から浮き出たドングリを落し蓋で水面下に沈めてから測定する

 上記の手順で得られたドングリの総重量の変化を表したのが図8-88-4です。この図から、アベマキとマテバシイの総重量の変化量と、重量減少率 [ = (総重量の減少量)/(乾燥前の総重量) ] を求めると、以下の結果が得られました。

 ・ アベマキ   総重量: 491g(乾燥前) → 322g(乾燥後)  重量減少率=34% 

 ・ マテバシイ  総重量: 213g(乾燥前) → 146g(乾燥後)  重量減少率=31%


 アベマキとマテバシイでは重量の減少率がほぼ同等であり、乾燥して水分が消失することで元の重量の約2/3程度まで減少することが判りました。参考までに、アベマキのドングリの個体別の重量変化を柱状グラフにまとめたものが図8-88-5です。この図から直接読み取ることは出来ませんが、乾燥前のドングリの大小に関わらず、元の重量の2/3程度まで減少することが確認できました。

 一方、ドングリの総体積の変化量と体積減少率 [ = (総体積の減少量)/(乾燥前の総体積) ] については、以下の結果が得られました。
 ・ アベマキ   総体積: 400cc(乾燥前) → 340cc(乾燥後)  体積減少率=23% 

 ・ マテバシイ  総体積: 200cc(乾燥前) → 175cc(乾燥後)  体積減少率=12%
 この結果から、アベマキのドングリは乾燥して水分が無くなると、元の大きさの約3/4程度まで縮むことが判りました。ところが、同じドングリでもマテバシイについては、体積減少率がアベマキのおよそ半分の10%程度であり、乾燥しても見た目にはほとんど大きさが変わらないことが判りました。これは、アベマキよりもマテバシイのドングリの方が果皮が厚くて硬いので、乾燥しても果皮が収縮しにくいせいだと考えられます(***)
*** ドングリの果皮の肉厚については、セクション11-1を参照願います。