雑記085. 2012. 7.24
“ King of style ”
 花柱と心皮の関係について調査してきた結果、ブナ科(クリ属を除く)の植物の雌蕊には少ないもので2本、多いものは5本の花柱があり、それらの数は雌蕊を構成する心皮の数と一致することが判りました(*)
 多果のような特殊な形態
を除くと、単果における花柱の下限は2本しか確認できていませんが、上限については未だ確認できていません。
 これまでに、数百体ものシラカシやアラカシで幼果の花柱の形態を検分してきた結果、外観上6〜7本の花柱が存在するものが2つ見つかりました。しかしながら、それらの内部構造を調べてみると、いずれも花柱の数に対応した子室が明確に認められませんでした。
  * 雑記081〜084を参照願います。

 花柱が6本以上あるように見えた幼果の例を図8-85-1に示します。この図の花柱は見た目に7本ありますが、内部構造が不明瞭なで子室が5個しかないように見えます(図8-85-2参照)。そんなわけで、外観からは6本以上あっても、実際の花柱の数は5本が上限かもしれないと思っていました。

 ところが、先日いつものように近隣の樹木を探索していると、明確に独立した8本の花柱をもつシラカシの幼果が見つかりました☆ 5本を超える花柱を探していたら、いきなり眼前に8本のものが現われたのですから、ホントぶったまげてしまいました♪ 

 8本の花柱をもつこの幼果は、自宅周辺にある街路樹のものでした。図8-85-3の上にある赤丸で囲んだのがそれです。他の幼果よりもややサイズが大きめです。この図の下段を見ると、花柱がスプリットしたり合着した様子が全く見られず、はっきりと8本ある様子がお判り頂けるでしょう。

 
 この花柱を真上から見ると、1本1本がまるで鋭い歯の様で、その姿はスチーブン・キングの映画 『 ランゴリアーズ 』 に出てくる、何でも食い尽くしてしまう口だけの怪物を彷彿させます(図8-85-4参照)。念のために、幼果を胴回りで切断してその断面を見てみると、明らかに8個の子室と計16個の胚珠がありました。

 子房の中心軸に対して同心円状に胚珠を配置せずに、このようにランダム(というか子房の中心軸に対しておよそ径方向に配置)に詰め込んでやれば、一つの子房の中にかなりの数の胚珠を包含出来ちゃうわけですね。ブナ科の雌蕊を構成する心皮の数は、5枚が上限では無いことがこれではっきりしました。

 それにしても、4本乃至5本の花柱をもつ幼果ですら全ての子室に胚珠を2個ずつ包含することは稀なのに、この幼果の完璧さは奇跡といっても過言ではないでしょう。まさに “ King of style (花柱の王) ” と呼ぶに相応しい幼果の発見を最後に、花柱と果実の内部構造(子室、胚珠等)に関する調査は、一先ずこれで終了致します。一連の調査から、数多くの重要な知見を得ることが出来て私は大変満足でした☆