雑記084. 2012. 7.21
“ ブナ科の植物に単一雌蕊は存在するのか? ”
 被子植物の雌蕊は、ほとんどが複数の心皮(=合成心皮)から成る複合雌蕊ですが、中にはモクレン科やマメ科の植物のように1枚の心皮(=離生心皮)からなる単一雌蕊も存在します。ブナ科の植物の雌蕊は、雑記081〜083で紹介したように2〜5枚(*)の心皮で構成されているので、基本的には複合雌蕊です。但し、雌蕊を構成するのに最低2枚の心皮である必然性は無いので、1枚の心皮で形成された単一雌蕊があっても不思議ではありません。
 そこで私は、単一雌蕊の指標となる1本の花柱をもつドングリを求めてこれまで探索を続けて来ました。

 昨年は樹上で手が届く範囲のドングリについて、手当たり次第に花柱の数をチェックしましたが、花柱が1本のものは見当たりませんでした。今年は花柱と子室(胚珠)の数の関係について調査する際に、開花後1.5〜2ヶ月が経過したアラカシやシラカシの幼果について各々数百体を対象に調査したところ、待望の1本の花柱をもつシラカシの幼果に巡り会うことができました(図8-84-1参照)。

 ただ、この幼果の花柱は同じ個体に着果した他の幼果と比較すると太さが倍ぐらいありました。そこで念の為に幼果の内部を確認したところ、子室が2個もありました。残念ながら、この幼果は2枚の心皮で構成された複合雌蕊で、2本の花柱が合着して1本に見えていただけでした。
  * クリ属の雌蕊は、6〜9枚の心皮から成る複合雌蕊です。

 やはり、ブナ科の植物に単一雌蕊は存在しないのかもしれないと思い始めた矢先、別の目的で行ってきた調査結果が、私の探索意欲に再び火を点けることになりました。その調査結果というのは、存在数が極めて少ない2本の花柱をもつ堅果(幼堅果)が、多果を構成するものに数多く存在することです(**)

 雌蕊を構成する心皮の枚数が、単果よりも多果で少なくなるケースが多いのであれば、多果を構成する複数の雌花の中に、1枚の心皮からなる単一雌蕊の雌花が存在する可能性が十分に考えられます。
 ** 詳細は、雑記83を参照願います。

 そこで、多果を発現しやすいシラカシを中心に、多果だけに着目して再度調査してみました。その結果、1個だけでしたが、花柱が1本の幼堅果を含む3果の幼果を見つけることが出来ました(図8-84-2参照)。

 この幼果の花柱は、隣接する幼堅果(図8-84-3 左図にある右側の幼堅果)のものと比較すると、花柱の先端が球状であることと、太さが1本分しかありませんから、紛れもなく単一雌蕊の雌花に由来するものと考えられます。因みに、この幼果の内部構造を調べてみると、子室と思しきものの中に胚珠は存在しませんでした。

 今回の調査から、ブナ科の植物でも多果を構成する雌花の中に、単一雌蕊の雌花が存在することが判りました(***)

*** その後の調査で、単一雌蕊に由来する単果も見つかりました。詳細は、雑記119を参照願います。