雑記082. 2012. 7.15
“ 花柱は語る 〜余話〜 ”
雑記081で、4本乃至5本の花柱をもつシラカシのドングリが、花柱と同じ数の心皮で構成されていることを実証するために、幼果の内部の写真を数多く撮影しました。着手する前は、剃刀を使って幼果の胴回りをCTスキャンのように輪切りにし、その断面を実体顕微鏡で観察すればいいだけの単調な作業に思えましたが、実際に子室と胚珠の数量がマッチした断面を鮮明に撮影するとなると、かなりの時間と労力を要しました。今回は、雑記081に記載しきれなかったデータの中で、重要と思われるものを選んで紹介します。
1. スプリットしている花柱
通常、花柱の数と雌蕊を構成する心皮の数は対応しています。ところが、花柱の中には1本が2本にスプリット(分裂)していたり、逆に2本が合着して1本になっている場合があるので、必ずしも見た目の花柱の数と心皮の数が一致するとは限りません。実際に、1本の花柱が2本に分裂して、花柱と子室の数が一致しない例を図8-82-1に示します。
2. 1つしか胚珠を包含しない子室
ブナ科の雌蕊は、一般に複数の心皮で構成されています(複合雌蕊)。1枚の心皮で1つの子室が形成され、その中に普通は2個の胚珠が入ってます。典型的な3本の花柱をもつ幼果(雌蕊が3枚の心皮から成る)では、1つの子室に1個しか胚珠が包含されていないケース(図8-82-2 左側参照)は稀ですが、4本の花柱をもつ幼果(雌蕊が4枚の心皮から成る)では、50個前後の検体の実に80%でこのケースが見られました(図8-82-2 右側参照)。
さらに、5本の花柱をもつ幼果(雌蕊が5枚の心皮から成る)については、5つの子室の全てに胚珠を2個ずつ包含したものは、50個前後の検体の中で僅か3個しかありませんでした。
3. 子房の中心軸周りに同心円状に配列しない胚珠
3本の花柱をもつ幼果(雌蕊が3枚の心皮から成る)では、全ての胚珠が子房の中心軸に対してほぼ同心円状に並んでいます(図8-82-3 左側参照)。ところが、4本の花柱をもつ幼果(雌蕊が4枚の心皮から成る)になると、検体の90%以上で4つの内の1〜2つの子室の胚珠が中心軸に対して径方向に並んでいました(図8-82-3 右側参照)。さらに、5本の花柱をもつ幼果(雌蕊が5枚の心皮から成る)になると、全ての検体で、5つの内の1〜4つの子室の胚珠が中心軸に対して径方向に並んでいました。
4. 全く胚珠を包含しない子室
4枚乃至5枚の心皮で構成されている子房には、胚珠を包含しない子室(種無しの子室)が数多く見られました。特に、心皮が5枚のものではその傾向が顕著になりました(図8-82-4参照)。