雑記081. 2012. 7.12
“ 花柱は語る ”

  “ ドングリ(クリ属を除く)には3本の花柱がある ” と一般の文献には記載されていますが、実際に採集したドングリをよく観察してみると、少ないものは2本、そして多いものは5本もあります(図8-81-1参照)。
 
 当初、花柱の数が異なるのはコナラ属のドングリに特有のものであると考えていたのですが、様々な樹種で調べた結果、マテバシイ属やシイ属のドングリ(図8-81-2参照)でも全く同じ状況であることが判りました
(*)
 確かに平均的なドングリの花柱の数は3本であり、それ以外は種全体から見ると少数派です。しかしながら、表8-81-1に示す様に、少数派であるはずの4本の花柱を有するドングリが、それを結実した個体で半数以上を占める場合も多々あるので、単純に花柱の数が3本であると記載している文献に対して不信感をいだくようになりました。
* セクション14を参照願います。

 花柱は雌蕊の先端にあって花粉の授受を媒介する器官であり、通常雌蕊を構成する心皮(**)の数に対応していると考えられています。ですから、花柱が3本あるということは、雌蕊が3枚の心皮で構成されていることになります。
 但し、花柱は本来1本のものが2本にスプリットしたり、2本のものが合着して1本になっている場合もあるので、必ずしも見た目の本数と心皮の数が一致するとは限りません。

 そこで、実際に花柱の数が異なるシラカシの幼果を胴回りで切断して、内部にある子室と胚珠を観察してみることにしました。前述した通り、花柱はスプリットしたり合着するものがあるので、見た目で花柱が2本あるのものを20個、それ以外の本数のものをそれぞれ50個前後検体として採集しました。
** 雌蕊を構成する要素で、胚珠をつけた葉っぱ [ 大胞葉 ] のことを意味する。ブナ科の場合、1枚の心皮で1つの子室を形成し、その内部に2つの胚珠を包含する。

 シラカシの幼果の子室や胚珠の状態が実体顕微鏡レベルで明瞭に観察出来るのは、開花後1.5〜2ヶ月が経過したちょうど今頃です。そこで、手始めに最も入手しやすい4本の花柱をもつ幼果の内部構造を調べてみました。すると、そこには4つの子室が存在し、その内部には各々2個づつ、合計8個の胚珠が存在しました(図8-81-3参照)。

 さらに、4本に次いで存在数が多い5本の花柱、そして最も存在数が少ない2本の花柱についても同様に調べた結果、前者には5つの子室と計10個の胚珠、そして後者には2つの子室と計4個の胚珠が存在しました(図8-81-4参照)。

 以上の結果から、ブナ科(クリ属を除く)のドングリには概ね2〜5本(***)の花柱があり、各々の雌蕊は基本的に2〜5枚の心皮で構成されていることが確認出来ました。一般文献で目にする “ ドングリには3本の花柱がある ”、 “ ブナ科の雌花の雌蕊は3枚の心皮で構成されている ” という記述は、あくまでブナ科の数性に配慮したものであって、現実はその限りではありません。
*** 現時点で6本以上の花柱をもつドングリは確認出来ていないだけで、6本以上のものが存在しないというわけではありません。