雑記068. 2011.11.12
“ 多果の雌花がドングリになるまで ”
 図8-68-1の建物は、自宅から300m程のところにある三田温泉 “ 熊野の郷 ” です。今回は、この建物の沿道に立つちっぽけなシラカシの話です。

 自宅周辺の道路沿いには、シラカシやアラカシ、トチ等が数多く植栽されています。この写真のシラカシは、それらの中でもとりわけ貧弱で、道行く人々も全く関心を示さないような個体ですが、沿道にあるたくさんのシラカシの中でこの個体にだけ、総計314個もの多果の雌花がこの春咲きました。
 この個体は、高さが2mぐらいなので樹木全体の様子が私の目の高さで観察し易いのと、通勤途上にあるという利便性もあって、複数の多果を選定してほぼ毎日のように定点撮影を続けてきました。

 撮影を始めた6月上旬からおよそ1ヶ月間は、どの多果(幼果)も順調に育っていたのですが、徐々に櫛の歯が抜け落ちていくかのように多果だけが脱落し始めました。撮影から2ヶ月が経過した8月になると、私が撮影のターゲットにしてきた多果は、1個を除いて全て脱落してしまいました。
 他のシラカシもそうですが、大量に多果が発現してもその中で結実するのはごく僅かであることから、今回のような状況でも全く不思議ではありませんが、この2ヶ月間入念に撮影を続けてきたので残念でなりませんでした。残りの1個についても、落下するのは時間の問題だろうと半ば諦めの心境でその後の撮影を続けていました。

 ところが、この最後の1個になってからがなかなかどうして、ビックリするぐらいしぶとかったのです。10月になると、この個体に残存する多果は、私が撮影のターゲットにしてきた1個を含めて、全部で3個になっていました。6月に開花した多果の雌花の内、ここまで生き残ったのは全体の1/100以下ということになります。

 こうなると毎日目が離せなくなりました。後1ヶ月もすれば成熟するので、何とか持ちこたえて欲しいと連日神に縋る想いでした。その祈りが通じたのでしょうか。昨日見たら、堅果は茶色く色づいており、軽く触れただけで殻斗から外れました。無事に完熟したのです(図8-68-3参照)。そして、この多果と歩調を合わせるかのように、ここまで頑張ってきた他の2個の多果もいっしょに採集しました(図8-68-4参照)。

 今回、私が雌花の頃からず〜っと撮影を続けてきたのは、図8-63-3の上段にある3果です。最初は3個の幼い堅果がほぼ同じ大きさでしたが、途中から1個だけ成長が鈍化し、残りの2個だけが大きくなりました。
 成長が止まった堅果については、3つの中で維管束のパスの割り当て分が小さかったせいか、このサイズまで成長するのが精一杯だったのでしょう。この図では、3個の堅果がよく判らないので、このドングリだけを拡大したものを図8-68-5に示します。

 詳細な成長記録については、後日あらためて別のセクションで紹介しますので、ぜひご覧になって下さい。