雑記609. 2026. 7. 9
“ 例外は認められません ”
コナラ属でもマテバシイ属でも雌花序の基本的な構造は同じです。殻斗の元になる器官に雌花が咲くと、そこから殻斗が出現します(図8-609-1参照)
ただ、マテバシイ属の雌花序の多くは、コナラ属のものに比べて見た目が随分異なります(*)。具体的に言うと、コナラ属は殻斗の元になる器官に雌花が一つ咲いた雌花序が一般的ですが、マテバシイ属では複数の雌花序が花軸(果軸)の特定箇所に集結して、それらが合着して1つのドングリを形成しているところです。
* マテバシイ属の雌花序は、花軸と殻斗の元になる器官の間に白っぽい接合部分が認められます。これは、コナラ属のものには見られないマテバシイ属に固有のもののように思われます。ただ、コナラ属でも通常の花期以外に開花を繰り返す個体で、稀に同じ接合部分を有する雌花序を目にすることがあります(セクション21 23項参照)。季節外れに開花を繰り返す個体に咲く花序には、その種が誕生した当時の形態を現代に再現しているものが多いことから、もしかすると太古の昔にはコナラ属でもこのような形態が一般的だったのかもしれません。
ところで、冒頭で述べたように、一般にマテバシイ属の殻斗は複数の殻斗が合着してできたものであると考えられていますが、果たしてそれは正しいのでしょうか?その真偽を明らかにするために、私は独自に証拠となるものを探し続けてきました。その結果、マテバシイの花序の中に、稀に殻斗の成り立ちを考える上で有効な検体があることに気づきました。
そして、それらの検体について開花直後から成長過程をトレースすることで、異なる雌花序が合着しても、各々の雌花序から出現した殻斗は特殊な場合を除いて合着しないことが判りました(**)。以来、5年間にわたって同様の形態のサンプルを探し出し、成長過程をトレースし続けてきましたが、今日に至るまでに見つけた20個余りの検体で、前述の結果を覆すようなものは見つかっていません。
** セクション32-1を参照願います。
今回は、その5年の間に調査してきた検体の中から代表的なものをピックアップして紹介します。これまでにこのHPで紹介してきたデータの最新版を紹介するだけかもしれませんが、ここで私があらためて言いたいのは、マテバシイ属の殻斗は複数の異なる殻斗が合着しているのではなく、一つの殻斗がそのように見えているだけで、コナラ属における多果の殻斗と本質的に変わりはないということです。
では、まず初めに2つの雌花序が合着しても、各々の雌花序から出現した殻斗が合着しなかった事例です。図8-609-2、図8-609-3は、それぞれ2つの3果の雌花序が合着したものと、3果と2果の雌花序が合着したものです。
マテバシイの幼果の形態を見て、それが異なる雌花序が合着したものか否かを判別するのは簡単です。なぜなら、合着したものは、同じ花軸(果軸)にある他の幼果に比べて、合着した雌花序の数だけ花軸との接合面積が大きくなっているからです。
通常、マテバシイの花軸に見られる1つの殻斗の元になる器官に1〜3個の雌花が咲いたものは、雌花の数によらず接合面積がほぼ同じです。極めて稀に、4〜6個の雌花が咲いたもの(***)もありますが、これらについても3個以下のものと接合面積がほとんど変わりません。この基準に照らし合わせると、これらの写真にある幼果が、複数の雌花序が合着したものであることは明らかです。
*** セクション3-1-2 マテバシイの項を参照願います。
いずれも、合着した2つの異なる雌花序から出現した殻斗は合着しませんでしたが、図8-609-3のケースを例にその成長過程を図8-609-4、図8-609-5に示します。
図8-609-4の幼果を見ると、2つの雌花序(2果と3果)が完全に合着していることは一目瞭然ですが、成長してそれぞれの雌花序から出現した殻斗は合着しませんでした(図8-609-5参照)。
次に、2つの雌花序が合着して、各々の雌花序から出現した殻斗が合着した事例です。これは殻斗が合着しなかった事例に比べると数は少ないですが、異なる雌花序が合着して、なおかつそれぞれの雌花序から供出された雌花同士が合着するか、あるいは合着しないまでもそれに準ずる形で近接した場合に、各々の雌花序から出現した殻斗が合着します。
図8-609-6はその一例ですが、2果と3果の雌花序が完全に合着し、なおかつ各々から1つずつ供出された雌花序同士が合着しています。そして、これが成長したのが図8-609-7、図8-609-8です。
合着した2つの雌花を中心に、2つの異なる殻斗が合着していました。マテバシイ属で異なる雌花序が合着して、各々の雌花序から出現した殻斗が合着するのは、この特殊な場合に限定されます。ちなみに、セクション32-1でも言及しましたが、2つの雌花が合着してできた堅果(***)が、マテバシイの樹上でごく稀にしか存在しない様子を見れば、マテバシイ属の一般的な殻斗が複数の雌花序が合着してできたものでないことは敢えて言うまでもないでしょう。
*** セクション3-1-2 マテバシイの項を参照願います。
マテバシイ属の殻斗が合着したものであることは、理論的に決着していると考えておられる専門家が多いようですが、理論は物証が伴って初めてその信憑性が議論されるのであって、物証のない理論は単に発案者の憶測に過ぎません。私の見解に誤りがあるのであれば、ぜひ理論の根拠となる物証を示して、私の誤解を正していただけることを期待しております。